<起業家インタビュー>

■ 若手ハンターに活躍の場を

―狩猟免許の取得者が増えているそうですね。

高野:10〜30代のハンターは年々増えています。環境省の統計でも、2010年からの10年で若手免許保持者は3万人近くまで増え、欲のある担い手が確実に育っています。
しかし、若手が増えても実践の場は十分ではなく、経験を積めずに“狩猟を始められないハンター”として活動を断念してしまう人も多い。一方で、農家の鳥獣被害は深刻化し、年間540億円相当の獣肉が廃棄されている現状があります。このギャップを埋められる仕組みが必要だと感じました。

狩猟免許発行数の推移

―高野さんご自身もハンターですね。そこからどのように起業へ?

高野:北海道の農村で育ち、鳥獣被害に悩む農家の姿を間近で見てきました。自分も2016年に狩猟免許を取得し現場に入りましたが、若手の活躍の場がまったく整っていないことに気付きました。そこで、農家・ハンター・飲食店・自治体をつなぐ仕組みをつくろうと、2019年に株式会社Fantを立ち上げました。現在、登録ハンターは1800名、提携飲食店は600店舗を超え、自治体との連携も全国へ広がりつつあります。

Fant登録者数

■ ハンター・農家・飲食店をつなぐ「ジビエ・プラットフォーム」

―Fantはどのように生まれ、広がっていったのでしょうか。

高野:始まりは農家からの駆除依頼をハンターに届ける仕組みでした。やがて飲食店から「安定してジビエを仕入れたい」という声が増え、捕獲された獲物を処理施設に運び、加工後に飲食店へ届ける一連の流れをFantが設計しました。三者の課題を同時に解決できる仕組みが評価され、全国にサービスが広がっていきました。

Fantの農家ビジネスモデル

―ジビエ加工工場を建設する計画も進めているとか。

高野:はい。需要は伸びているのに、処理施設が圧倒的に不足しています。搬入距離が長いほど鮮度が落ち、ハンターにも負担がかかる。このボトルネックを解消するため、自社主導の加工工場の建設を計画し、資金調達も進めています。工場が整備されれば、地域の獣害対策が“収益を生む仕組み”に変わり、若手ハンターの雇用の安定にもつながります。

 

■ Fantの競争力は「人材と技術の継承」

―Fantの強みはどこにあると考えていますか。

高野:最大の強みは“人”です。狩猟は高い専門性が求められる一方、体系化された教育が不足していました。Fantには熟練者が多数登録しているため、若手が同行を通して安全管理や捕獲判断、解体技術まで学べます。マッチングにとどまらず、技能と倫理を継承するコミュニティが形成されている点が、Fantの大きな競争力だと感じています。

―1800名のハンターを今後どう増やしていくのでしょうか。

高野:増やすだけでなく、実際に活躍できる人材に育てることが重要です。狩猟の基礎講座、オンライン教育、現地研修、地域コミュニティづくりなど、教育体系の整備を進めています。さらに、狩猟以外にも獣害対策、ジビエ流通、護衛ビジネスなど通年で働ける仕組みを作ることで、若手が定着しやすくしています。

―猟友会との連携はどのように考えていますか。

高野:猟友会は地域の安全管理や捕獲の基盤を担ってきた大切な存在です。ただ、全国的に高齢化が進み、若手が経験を積む機会が限られているという課題があります。
Fantは猟友会を置き換えるのではなく、若手が継続的に活動できる仕組みを補完する役割だと考えています。

 

■ 広がる“護衛ニーズ”と自治体連携

―クマの出没地帯で護衛ニーズが高まっているそうですね。

高野:林業、測量、インフラ点検、ゴルフ場、イベントなど、野生動物の出没が増えている地域では作業員の安全確保が必要です。そこで、ハンターが現場に同行し、リスク状況を判断しながら安全を確保する護衛依頼が増えています。捕獲だけでなく、高度な判断力が求められる仕事で、ハンターの新しい収入源にもなっています。

―自治体との連携はどのように広がっているのでしょうか。

高野:多くの自治体では、捕獲・処理・流通・データ管理が分断され、投じた予算の効果が見えにくい状況があります。Fantはこれらを一体運用することで行政の負担を軽減し、捕獲した個体を資源として循環させられます。結果的に地域経済にもプラスの効果が生まれます。

Fant代表 高野沙月

■ “社会課題を持続可能なビジネスで解決する”

―Fantの長期ビジョンを教えてください。

高野:狩猟は本来、自然との関わりを理解し、地域を守るための技術でした。
私たちはその価値を現代の社会課題に合わせて再構築し、食・農・環境・安全の複数領域にまたがる産業として確立したいと考えています。
 事業を拡大し、将来的に上場を目指すことも視野にありますが、それは成長のためというより、野生鳥獣による社会課題を持続可能なビジネスとして解決するために必要なステップです。

interviewed by kips 2025.11.13




【株式会社Fant】
設 立:2019年7月22日
所在地:北海道河東郡上士幌町上士幌東3線247-4 かみしほろシェアOFFICE
資本金:18,749千円
事業内容:ハンター向けプラットフォームの企画・開発・運営
従業員:1名

株式会社Fant 代表取締役 高野 沙月 氏

 

【代表者略歴】

株式会社Fant
代表取締役
高野 沙月 氏 Takano Satsuki

 
生年月日:1990年5月11日
出身高校:帯広緑陽高校

北海道音更町出身
2013年 明星大学造形芸術学部卒業
2013年 (株)ティラノ入社
2016年 第一種狩猟免許、猟銃所持許可取得
2016年 北海道上士幌町へJターン
2019年 (株)Fant 設立


※「THE INDEPENDENTS」2025年12月号 - P.2-3より