アイキャッチ

「SDGsに必要な新しい狩猟文化を創っていきます」

公開


【代表取締役 高野 沙月 氏 略歴】
生年月日:1990年5月11日
出身高校:北海道帯広緑陽高等学校
2013年明星大学造形芸術学部卒業後、(株)ティラノ入社。2016 年北海道上士幌町へJターン。2019年(株)Fant設立。第一種銃猟免許、猟銃所持許可。

【(株)Fant】
【設 立】2019年7月22日
【所在地】北海道河東郡音更町字上然別西7線99
【資本金】1,254千円
【株 主】高野沙月ほか
【役 員】(代)高野沙月
【事業内容】ハンター向けプラットフォームの企画開発運営
【売上高】N.A


<起業家インタビュー>

SDGsに必要な新しい狩猟文化を創っていきます


■若者中心に増えるハンター人口

私は北海道上士幌町(かみしほろ町)でハンターをしながら当社の運営をしています。日本の狩猟免許の所持数は約21万人で、60才以上の方が全体の約6割を占めますが、2013年頃から20代~30代が毎年およそ2千人ずつ増え、今は約2万6千人の若いハンターが全国にいます(2017時点)。女性のハンターも増加しています。狩猟免許の所持者数を都道府県別にみると、北海道が最も多く、次いで、関東、中部地方などとなっています。

■若いハンターのための交流サイト「Fant」

ハンターは都道府県公安委員会(警察庁)により銃の所持許可や、都道府県庁(環境省)により狩猟免許の交付を受ければ誰でもなれます。かつてはいわば徒弟制度のように、年長者が技術を伝承していましたが。そこで、私は(株)Fantを起業し、若い世代のニーズに合わせて、情報共有やスキルアップのノウハウをシェアできるハンターのためのプラットフォーム「Fant」を2020年に公開しました。全国から400人のハンターが登録しています。



■狩猟には多様な関わり方があります

農作業の被害を防ぐため鹿や猪などの鳥獣駆除を任されている方、趣味として楽しんでいる方、そして、ジビエとして販売や家庭用食肉として入手される方々がおられます。
アメリカには約1,370万人のハンターがおられ、狩猟文化の残るイギリス、ドイツ、北欧諸国には、それぞれ数十万人ずつハンターがおられます。日本では現在、猟師で生計を立てられる人は多くはないものの、自分の食べるものは自ら獲得するという文化的要素も、狩猟ハンター文化を支えています。

■ヘルシー面で注目されるジビエ料理

特に、狩猟によって捕獲された野生のシカは高タンパク低カロリーでヘルシーな肉料理として人気があります。東京には様々な調理法で食べられるお店が多くあります。食べログには、ジビエが食べられるお店が、5500店程度掲載されています。

■ジビエ肉流通上の課題

ハンターがイノシシやシカを捕獲すると、食肉処理施設へ運び、肉は解体され、レストンなどに販売されています。厚生労働省が定めた「野生鳥獣肉の衛星管理に関する指針(ガイドライン)」に沿って、捕獲後2時間以内に持っていくことが基本です。課題は、食肉処理施設以外に、狩猟したイノシシやシカを効率的かつ魅力ある販路がないことにあります。食肉処理施設は全国に667か所あるものの、概ね、従業員は1-2名で、受注保管、営業、代金回収まで行っているため、結果として、高コスト経営になり、それがジビエの仕入れ価格に反映されています。

■飲食店からのハンターへジビエをオーダーできるシステムをつくりました

飲食店から「〇月〇日までにシカ肉が欲しい。報酬は〇円で」という形で、当社のシステムから依頼を受け付けています。依頼を受けたハンターが、ジビエの調達に当たります。この新しいシステムで、食肉処理施設はジビエの処理以外の業務の負担を軽減することが可能になり、飲食店は、納得感のある価格で取引することが可能です。結果として、既存の流通システムと比べ、約15%程度安くジビエを卸すことが可能になります。

■全国の鳥獣対策にもハンターは役立っています

野生鳥獣による農作物被害額は158億円でした(2019年度)。被害の約7割がシカ・イノシシ・サルによるもので、シカ60万頭、イノシシ64万頭が実際に捕獲されています。ですが、農林水産省野生鳥獣資源利用実態調査によると、食肉処理施設が2019年に処理した野生鳥獣のジビエ利用量は2,000tです。全体の捕獲の約1割弱しかジビエとして流通していません。多くのシカやイノシシが廃棄処分されている現実があります。また、都市部に熊や猪などが近づくことで、人間の生活が脅かされることも増え、次世代ハンターの育成は重要だと考えています。

■農林水産省が「ジビエハンター」認定制度を2020年に開始

ジビエ利用を前提とする捕獲方法や解体方法などを学べる場は少ないので、ハンターとして備えておくべき技術や知識の平準化は有効だと思います。私も試験を受け、第一期生として認定を受けています。

■事業拡大のパートナーシップ

獣害被害で悩んでおられる自治体や、鳥獣被害削減や地域活性化を支援されている方々などへのアプローチを本格化していきます。

■新しい狩猟文化への取り組み

ハンター、飲食店、職人処理施設を結ぶシステムのプロトタイプを2021年9月に公開しました。十勝の食肉処理施設と協力し、サービス検証を行いながら、来年秋に全国を対象とした正式サービスをリリースします。全国的にハンターと飲食をつなげるために、狩猟がさかんな長野県や高知県にFantの食肉処理施設の設置も検討しています。また、次の一手としてペットフードへの流通も考えていきます。飲食とペットフード合わせて市場規模は1,365円ほどを想定しています。当社は事業を成長させながら、安定した良質なジビエ肉の提供、ハンターの育成に資していきます。これらを達成するために、資金調達を目指します。

(2021.9.10interviewed by 國本行彦)


※「THE INDEPENDENTS」2021年9月号 - p2-3より

株式会社Fant

住所
北海道河東郡音更町上然別西7線99
代表者
高野沙月
設立
2019年7月22日
資本金
2,000千円
従業員数
事業内容
ハンター向けプラットフォーム「Fant」運営
URL