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「「『適格機関投資家等特例業務の見直し』について」」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

 日本のベンチャーキャピタル投資は、年間投資金額で見ると2006年度に直近のピーク2,790億円を記録した後、ベンチャー不祥事の発生、IPO社数の減少、2008年秋のリーマン・ショックの影響などもあり、大きく冷え込んだ。ボトムは2009年度で年間投資金額は1,000億円を割り込み875億円まで落ち込んだ。しかし、その後持ち直している。2012年度は投資金額で見ると1,026億円と前年度を下回ったが、回復基調であったことは確かで、先頃VECから発表された速報値によると、2013年度は1,695億円と前年比65%もの大幅な拡大を見せた。

 その間、シード・アクセラレーターとかスタートアップ・アクセラレーターと称せられる、創業時のベンチャーに少額の資金を提供し経営支援も行う広義のベンチャーキャピタル、キャピタリストが増加した。彼らは、若手の独立系のベンチャーキャピタリストで、主として個人の投資家、最近IPOしたベンチャーの創業者などから投資資金の提供を受け、投資活動を開始している。彼らの投資先は、主として先行投資金額の小さなゲームソフトの開発ベンチャーやITを活用したサービスを展開するベンチャーで、いずれも若手の起業家といえる人達に率いられたベンチャーなのだ。

 こうした若手のキャピタリスト、起業家たちは2000年代前半以前の日本の起業家たちと違って、ファイナンスや経営について良く勉強しており、何よりも創業の意義や社会的な使命といったことに関して、定見を持っている人たちが多いように思う。

 このような流れは、今後の日本のベンチャー創出にとって大変好ましい流れだと思うが、それに棹を差すような問題が出てきた。それが金融庁の出した「適格機関投資家等特例業務の見直し」なのだ。

 ご存知のように、金融商品取引法が施行された際、VCファンドの組成にあたっては第2種金融商品取引業の登録と投資運用業の登録が必要とされた。しかしそれでは新しいファンド運用者が出にくいとの批判の中で、適格機関投資家等特例業務が認められ、その要件(出資勧誘する投資家の中に最低1名以上の適格機関投資家が存在することなど)を満たせばそうした業登録が不要とされた。しかし最近。その適格機関投資家等特例業務を悪用した詐欺的投資勧誘が横行し、深刻な被害が発生している。その対策として出されたのが「適格機関投資家等特例業務の見直し」なのである。

 「見直し」では、一般消費者の被害を食い止めるために、ファンドの販売などを行うことが出来る投資家の範囲を、従来のものからかなり狭め、通常の個人投資家への販売はほぼ原則禁止されるような内容になっている。今回の「見直し」の意図は理解できるものの、これではベンチャーキャピタルの新たな組成・発展を著しく阻害することになりかねない。

 既に各方面から反対の意見が出て来ているようだが、余りに投資家の範囲を狭める結果角を矯めて牛を殺す結果にならないようにだけは切に願っている。

※「THE INDEPENDENTS」2014年7月号 - p15より