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ランサーズ株式会社
代表取締役社長 秋好 陽介さん

1981年 大阪府茨木市生まれ
大学時代にサイト構築や受託開発などインターネット関連ビジネスで個人事業をおこす。
2005年 ニフティ株式会社 入社
2008年 株式会社リートを設立
2012年 ランサーズ株式会社に社名変更

設 立:2008年4月1日 資本金:9,000千円
所在地:神奈川県鎌倉市小町2-7-32 小町協同ビル3F
事業内容:クラウドソーシング事業 従業員:30名
http://www.lancers.co.jp/

―クラウドソーシングの認知度が上がってきた背景はどこにあると思いますか
私たちの場合、ランサー(個人:受託者)は地方が7割で、クライアント(企業:依頼者)の6割が東京です。東京へ出ていくのが物理的に難しい、コストがかかるなど、地方のランサーと都内のクライアントがより多くマッチングしています。3・11震災以降は働き方が注目されはじめ、企業や政府がテレワーク(在宅勤務)に対して着目し始めたのも増加要因だと思います。男女比は6対4で、職業で言うとデザイナー3万人・エンジニア2万人・ライター2万人という3つのスペシャリスト領域のフリーランスの方が多い。現状ですでにランサーズを御活用頂いておられる企業は、この様な多才な方々とお仕事をご一緒できるということに魅力を感じてくださっているのだと思います。

―登録者(ランサー)はどれくらい伸びてきているのでしょうか
ランサーズ登録会員は5年目で13万人となり、現在は月5000人増加しています。創業した2008年から私たちは日本初のクラウドソーシングサービスを提供しています。最近は大企業が参入し始めてきていますが、クラウドソーシングは信頼の積み上げが重要な指標になる側面があり、辛抱強く継続していくことが求められる比較的難しいビジネスモデルだと思っています。

―案件総額65億円超とクラウドソーシング業界を独走されておられますね
最近では大手企業の活用も増え、NTTデータやクックパッド、日本気象協会なども利用しており、半年以内にクライアントの50%がリピート発注して継続して利用する企業が増えています。仕事の依頼単価に応じて手数料は5%から20%をランサー(受託者)の方から頂いております。依頼できる仕事は、ロゴ・名刺・会社案内・HP制作やデータ入力などで、仕事依頼は70カテゴリあり、全国の優秀な個人に質の高い仕事をロープライスで24時間いつでも発注できます。依頼内容を投稿すると多数の提案が集まり実績や提案内容から一人を選んで、オンライン上で支払いまで完結できます。

―初めて発注するクライアントに対して、ランサーのスキルをどのように担保されるのですか
ランサーにオンラインテストを受けていただき結果を表示します。私たちは米国エキスパートレイティング社のデータベースを参照しており、世界ではgoogleやUPS、IKEAなど1万社以上が導入しており、一千万人以上がテスト実施されており、そのデータと比較して、受検者の評価ランキング(世界でトップ5%、という様に)を出します。日本では私たちが独占契約してローカライズしています。オンラインテスト導入効果はとても大きく、これを見て安心して発注される方が多くなりました。

―その他にはどのようにスキル評価をされているのでしょうか
仕事を実際に依頼したクライアントからの仕事結果について5つ星の定量的なフィードバック評価を実施頂いています。定性的なコメントや仕事実績の絶対数も必要となります。クライアントに対するランサーからの評価もあります。実際に会ってもその方がどれくらいのスキルがあるのか、技術面は見えませんが、逆にネット上ではスキルや評判が可視化されます。

―エスクロー機能はサービス開始当初から提供していたのですか
そうです。トラブルの元はやはりお金だと考えました。フリーランス側と発注者側両方の経験から、受発注時にどういったケースでトラブルになるのかは肌感覚で分かっていました。報酬の支払を仮押さえできるエスクロー方式は、クライアントは仕事が完了するまでは決済されません。ランサーもお金が支払われる保証があるので、お互いに安心して取引ができます。

―フリーランスを経てニフティ入社、そして起業されました
学生時代はフリーランスのエンジニアとして十分な報酬を得ていました。しかしもっと高い目線でビジネスをしたい、インターネットの最前線を知りたいという理由からニフティへ入社し3年間を企画畑の仕事をしていました。いつかは起業するつもりでしたが、マッチングサイトのビジネスモデルはかなりチャレンジングだと思っていました。日本ではまだ誰もやっておらず、これはチャンスだと直感的に思いました。

―起業に際して資金面の不安はなかったのですか
不安は特にありませんでした。もし何か上手くいかない状態になったとしても、元々フリーランスとして実績を作った前例があったので、食べていくだけのビジネスであれば作れる自信はありました。設立時は「reet(リート)」という社名で、リアル(real)とネット(net)をかけあわせた意味です。いざとなればECコンサルやサイト制作で食べていける自信はありましたが、2年間はランサーズが全然伸びなくて毎日胃が痛かったのを覚えております。ランサーズにすべてを集中させると同時にわかりやすい社名にしようと決断し、2012年にサービス名と同じ社名に変更しました。

―サイトを黒字化させるためにどのような手を打たれましたか
特段、変わった施策はしていません。ユーザーからの声を聞いて地道に日々改善を繰り返していただけです。「何をやって急激に伸びたのですか」とよく聞かれますが、特別なことを何かしたわけではなく徐々に伸びていきました。画期的な機能が出来た訳でも、大規模な広告を実施した訳でもなく、やるべきことをきちんとやっていただけです。

―最初から苦労することは分かっていたのに、なぜこの事業を始めたのですか
これがやりたくて仕方がなかった。それはやはり自分の体験です。フリーランス時代は企業から直接発注はなかなか受けられませんでした。逆に企業からすると個人事業者へ発注したいが様々な不安がある。お互いニーズはあるにも関らず噛み合っていないものを、ネットを使うことによって最初から全部ではなくても一部は噛み合わせることができる。その噛み合った所から成功事例を作っていき、徐々に幅を広げていければ、人々の働き方を変えることができるぞと。私たちの規模はまだまだ小さいですが、この仕組みが浸透すれば、時間と場所にとらわれることなくどこでも働ける世界が実現できると信じています。そうやって「働き方の変革」を起こせば社会が変わる、という強い想いがあったからこそ諦めずにここまで来られました。今でもそれは変わらないし、これから先の未来もどんな大変なことが起きても諦めることはありません。

―クラウドソーシング市場はどのくらいまで伸びると思いますか
仕事のアウトソーシング化という流れ全体としては変わりません。一方でクラウドソーシングもランサーズというサービスも認知度はまだまだ低く浸透の途上です。今登録者数が13万人ですが、人々の働き方に関する捉え方が変われば利用者は1000万人程度までいけると思います。フリーランスになったらランサーズに登録するというのが当たり前になるように、まだまだ利用者増加が見込める主婦層やシニア層にも広げていきたいと考えております。

―ランサーを教育によってスキルアップすることは考えていますか
教育という人を育てる分野は一番やりたい領域ですが、まだ順番はまだ先です。スキルのある人がオンラインで働けるのは当然で、スキルがない人が仕事をできるようにしていく事に一番の価値があると思います。まずは案件がある状態、次にスキルの見える化、最後に学習、この3つが揃ってはじめて育成と仕事のサイクルが完成すると考えています。

―海外展開についてはどのように考えていますか
可能性はあると感じています。数年先の展開に海外でのサービス展開や連携など、ありえない話ではないと思っております。ただ一方で、世界各地の仕事環境はそれぞれ全く違うので、まずは日本国内での普及が拡がればと思っております。

―後発の同業他社がVCから大型の資金調達を行ったり大企業と提携したりと気になりませんか
競合先に対する戦略を取るより、利用者の方々に対してどれだけ価値提供ができるかを常に考えています。クラウドソーシングという市場やカテゴリ自体へ同業他社の参入があることで市場の活性化が促されますし、良いことであると考えております。我々は愚直に今の利用者の方に向いてサービスを良くしていくユーザー第一主義に徹しています。

―ランサーズサイトは自社で開発したのですか
スピードを出すつもりで外部発注したのですが、その会社に途中で製作を放棄されてしまい、結局はデザイナーだった社員に「今日からエンジニアもお願いしたい」と本を渡して、素人の彼と2人で開発しました。今はその彼が開発部長を務めています。会社設立8ヶ月後にカットオーバーできました。

―鎌倉に本社を移転したのはなぜですか
「時間と場所にとらわれない働き方」を実践するために2009年8月に鎌倉へ引っ越しました。プラットフォームビジネスは先行投資型なのでパッケージ化とローコスト経営が重要です。設立時は川崎のインキュベーションオフィスに入居していました。現在の社員は30名に増えており、しばらくはこの体制で十分です。

―株式上場についてはどのようにお考えですか
今後の可能性の一つとしては捉えております。現在は、外部からの出資を受けていません。支出は最小限に抑え、できるだけ自分たちで賄うことで損益分岐点を越える仕組みを作ってきたからこそ、事業を徐々に広げてこられたので大きなファイナンスはそれほど必要ありませんでした。一方で、上場企業になって信用が上がれば発注件数が格段に増える可能性は高いと思います。クラウドソーシング事業において信頼感は大事なポイントであると思います。

【講演レポート】これからのワーキングスタイル(スリープログループ代表取締役 関戸 明夫)

【起業家インタビュー】クラウド請求書管理サービス(スタンドファーム代表取締役 豊吉 隆一郎)

※全文は「THE INDEPENDENTS」2013年5月号 - p4-5にてご覧いただけます