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「名古屋インデペンデンツクラブ 企業研究会」

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1994年に中国人民大学へ留学し、帰国後1997年に創業したフットセラピーの猪原社長と、本誌連載コラム「大連だより」でお馴染みの林高史氏に、中国進出における経営課題についてサービス業を中心とした観点から説明いただきました。

―まずは自己紹介をお願いします
猪原(左):フットセラピーの猪原です。最近の日本女性は中国や韓国などに行かれて東洋医学を体験された方も多いと思います。当社はそれを日本でできないかと、モノではなく技術を輸入して、日本風にアレンジして全国29店舗展開しています。アジアが誇れる東洋医学を世界に広めようとアメリカとオーストラリアにも出店したこともあります。今後は逆輸入という形で中国やアジアに展開したいと思っております。
林(右):私どもは大連で会計関連コンサルティング会社を経営しております。日本にも事務所がありますが、仕事の1/3は中国関係で、中国、東南アジア進出や運営の問題の相談を受けております。

―それではまず最近の中国の消費動向の実態について教えてください
猪原:20年前の天安門事件の時に私は初めて中国へ行きましたが、当時は社会主義の時代でみんなが人民服を着て自転車に乗っていました。1995年ごろから状況が変わってきて、今ではどこもモノが溢れています。しかしみんな、何を買っていいのかわからない、お金はあるが何に消費していくのかわからないようです。
林:中国にはコンビニも既にたくさんあり、モノは天井まで積まれています。自動車、不動産のように所有していて派手にみえるモノは好まれます。

―ものづくり企業だけではなく、サービス企業も中国進出が増えていると報道されていますが
林:非製造業が中国に進出するのは中国の消費動向をしっかり見極めたうえで行う必要があります。何を誰に売ろうとしているのか、中国でのサービスレベルとの違い、中国人の欲求水準をしっかりと見極めることが肝要です。例えば、日用品に関して言えば実際にお金持ちが安心安全を求めて高いものを買うことはまれです。庶民と同じ日用雑貨品を買い求め、街角では饅頭(マントウ。具のない蒸しパン)を食べて別に不安があるようには見えません。中国人は貧富を問わず物的欲求が強く、目に見える目立つモノにお金を使う。ホスピタリテイに対する価値観を持つにはまだ時間がかかると思います。

―猪原さんはサービス業の海外進出のポイントについてどのようにお考えですか?
猪原:国ごとに好みやブランドイメージが違います。ただ良いだけではだめです。日本人は海外のブランドに対する信仰が強くありますが。サービス業においては、人材教育もポイントです。サービスそのものが価値観になりますが、そのイメージや価値を共有化する事が難しい。

―中国でのサービス業の成功事例はありますか?
猪原:まだ大手企業を含め少ないと思います。日本そのままを持っていっても上手くいきません。中国人を使用人としてではなく、信用する、公平に見る、尊敬し合えるパートナーと見る事ができるかがポイントだと思います。
林:私どもの顧客であるアパレル会社では、生産から小売まで中国人がオペレーションを行い成功しています。中国のティーンエイジには服を買う余裕はなく、所得がそこそこあり、自分のお洒落にコストをかけられる20代後半女性を中心に商品開発しています。マーケットを理解している現地の中国人に全てを完結させます。

―中国進出にあたり資本は独資(100%子会社)が多いですが、今後変わっていきますか?
林:合弁は理想とするパートナーと出会えるケースは少ないのが現実です。特に中小企業では顕著です。マネジントは現地の中国人に任せるが、業績チェックは日本から行うことが肝要です。「ちゃんと見ているぞ」という姿勢が現地中国サイドに見えることが重要なのです。中国人はお金が大好きですし、親族を大事にする国民性です。よって中国側の責任者の親族が知らぬ間に採用されているなど日本サイドで意図しないことが起こりがちです。これは民族意識の差です。以上から独資での進出がベストですが、合弁が必要となるケースでは経営のチェック体制が不可欠だと考えます。

―フットセラピーは国内での事業基盤は堅実ですが、成長ストーリーを考えると今後は海外展開も必要かと思いますが
猪原:日本国内と海外と両方での展開を考えています。欧米では自分自身の価値を高めるために投資をします。美容や健康などへの自分への投資は、日本では男性や高齢者層へ広がります。中国では富裕層が増えています。リラクゼーションという一つのサービスにこだわらず、新しい技術を取り入れて展開していきます。

≪会場より質問≫
―中国との文化の違い、特にマナーに対する感覚は相当違いがあると思いますが、今後改善していくでしょうか?
猪原:すぐには難しいと思います。時間が必要です。日本でも昭和の時代の路上マナーは今の中国と同じでした。30年かかる、ただそれが20年で変われば良いと思います。

―最後にフットセラピーの今後の海外戦略について教えてください
猪原:先日、アフリカへ行ったが40時間かかりました。1泊2日で行けるアジアとは違います。距離の近さは大切です。日本の市場で良いブランドを作れば中国から誘いがくる。その時に円の強さは利用したいと思います。ただ気長に見ていますが。

―中国進出における成功の秘訣はありますか?
林:まだまだ、たまたま上手くいったという事例ばかり。ただ中国の経済力は消費市場として魅力的であることには間違いありません。幣事務所にも進出支援の依頼が多数ありますが、要は果敢にチャレンジしていく姿勢が大切です。中国市場を利用して儲けるわけですから、中国という国、国民に対する理解、しっかりとした事業計画そして何よりも積極的な投資が必要かと思います。
本日はありがとうございました。

≪感想≫
サービス業は進出のハードルが高い(中国がホスピタリティを求めるようにはなるのは遠い)という点が面白かったです。(監査法人)
中国市場はまだ時期尚早というところが興味深かった。(起業家)
中国の人件費が上昇する中で、生産基地としてのメリットは薄れてきていると思うが、今後は消費国として付き合ってゆくべきだと感じた。(コンサルティング)