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「第134回事業計画発表会 講評・総括より *2014.2.12」

公開


早稲田大学
商学博士 松田 修一 氏

1943年山口県大島郡大島町(現周防大島町)生まれ。72年早稲田大学大学院商学研究科博士課程修了。73年監査法人サンワ事務所(現監査法人トーマツ)入所、パートナー。86年より早稲田大学に着任し、ビジネススクール教授などを歴任。日本ベンチャー学会会長、早大アントレプレヌール研究会代表世話人も務める。2012年3月教授を退官後、株式会社インディペンデンツ顧問に就任。

基調講演は「俺の株式会社」の安田道男副社長にしていただき、高性能GPSで分析情報サービスをしているマゼランシステムズジャパン(株)の岸本信弘社長と(株)アバンセライフサポートの林隆春社長から、事業計画のプレゼンを伺いました。参加者の方々から多くの質問やアドバイスも出ましたが、最後の総括講評をいたしたいと思います。

(1)基調講演「俺の株式会社の企業戦略」(俺の 取締役副社長 安田道男氏)
 ブックオフコーポレーション創業者であった坂本孝氏が、2009年にVALUECREATE(現・俺の)を起業し、日本のスーパーシェフやソムリエが、目の前で最高の料理やワインを提供する「俺のイタリアン」(新橋本店)を11年にスタートした。安田氏は、証券会社の経験を経て、2010年から取締役として参画し現在に至っている。 現在、俺のシリーズで、フレンチ・イタリアン・割烹・焼き鳥・焼肉等21店舗を開店している。
 通常の高級店(100坪ベース)が、月間売上高22百万円、原価率30%、経常利益率5%で、経常利益1百万円の損益計算である。
 俺のイタリアン新橋本店では、開店から20分ほどでいっぱいになった35坪ほどの店内で、ほとんどが立ったまま、肩を寄せ合って歓談し、イタリアンとワインを楽しみ、 ピアノの音が響く。お客様は2時間交代制である。
 お店は、常に一等地の高級店脇に出店する。お店の初期投資は高いが、目の前で最高のシェフの料理でおもてなしをし、超高原価率であるが、多来客数・高回転率で12倍の効率で、結果的に低人件費・低管理費によるローコスト経営で高利益率を可能にしている。ジャーナリズムが取り上げることによって話題性を作り上げ、口コミ販促に徹している。
 世のため、人のために、人の力を引出し、社会的正義を実現するという理念の実践家である京セラの創業者稲盛氏が運営する盛和塾の中核リーダーが坂本氏である。世界初の中古本チェーンを日本・米国・欧州で立上げた「逆転の発想」を実現した坂本氏は、レストラン事業で再び起業したシリアルアントレプレナーである。安田氏を中心とした管理本部とトップシェフによる教育専門キッチンの運営によって、世界1,000店(1,000店×3人シェフ)を目標に掲げている。
 日本に700人しかいないというトップシェフと共に、常に逆転の発想から生み出されたこの仕組みを、ビジネスモデル輸出国家日本の「クールジャパン」モデルにしていただきたい。

(2)マゼランシステムズジャパン
 ヨットレース出場の為兼松を退職して87年、超高感度GPSアルゴリズム開発から事業をスタートした岸本社長は、衛星測位技術(GNSS)を自社技術で開発し、この技術を知的財産として産業界へ適用することを主事業としているライセンスビジネスベンチャーであり、技術力は大手に引けを取らない。開発エンジニアリング部隊は、10名体制で、日本2、米国4、ロシア4を核としている。NASAと協業で自動衛星軌道予測技術の開発にも入っている技術レベルは、高い評価を得ている。
 現在国内外の農業トラクター数社の自動運転用のシステムを、提供及びライセンスアウトしている。国内では就農人口の高齢化に伴いニーズは高い。
 過去5年間は、研究開発費、市場投入に伴う客先の評価・実験作業に伴い赤字が累積したが、成果刈取り期に入り、2016年のIPOを目指し、最後の資金調達をしたい。建設機械メーカーや自動車メーカーは、独自で或いは、既存電機メーカーとアライアンスを組んだ開発を行っている。ライセンスビジネス中心では、付加価値を生み出す成長と雇用拡大が困難であるので、技術のシステム化、技術のチップ化、GPS情報のサービス化をどこまで進めるかで、当社の規模感が異なってくる。

(3)アバンセライフサポート
 2000年当時人材派遣事業でIPOを目指したが、失敗した。社会的ニーズもあり、介護関係事業を新規事業として立上げ、現在多様な福祉・介護施設運営事業を行っている。要介護の初期入居コストを十分出せる富裕層ではないが、自分の家屋も年金もない層を避け、最も多い中低所得者向けの施設運営(有料老人ホーム四季彩、グループホーム、デイサービス、小規模多機能ホーム)、介護サービス、人材派遣などの事業を営んでいる。昔の長屋のように元気な高齢者が介護の必要な高齢者を支援するという相互支援に共感する方々との、家庭の外部化に伴う命の循環型社会の実現を目指している。高齢者のみならず、精神障碍者の就労継続支援作業場の運営や外国人専門の児童デイサービス、さらに炊き出しボランティア等多様な社会的活動を展開している。
 高齢化社会時代の介護保険制度を活用しながら、土地活用による施設運営で、年率利回り9%を目指している。2018年のIPOを目指して、経営管理の整備を行っている。上場時には、創業者の株式全株を社会福祉法人に寄贈する予定である。現在生活保護受給者が受け取る月10万円、障害者年金の方が受け取る7~8万円では、老人ホーム入居に数万円不足する。この不足分を社会福祉法人から支援し、安心して命を全うできる温かい絆社会、セーフティネットを未来の資本主義社会(第3の道)として提示することを目指している。

※「THE INDEPENDENTS」2014年3月号 - p7より