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「第129回事業計画発表会 講評・総括より」

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早稲田大学
商学博士 松田 修一 氏

1943年山口県大島郡大島町(現周防大島町)生まれ。72年早稲田大学大学院商学研究科博士課程修了。73年監査法人サンワ事務所(現監査法人トーマツ)入所、パートナー。86年より早稲田大学に着任し、ビジネススクール教授などを歴任。日本ベンチャー学会会長、早大アントレプレヌール研究会代表世話人も務める。2012年3月教授を退官後、株式会社インディペンデンツ顧問に就任。

有意義な基調講演や2社の事業計画プレゼンに関して、活発な議論を有難うございました。総括コメントの要約を整理させていただきます。

(1)基調講演は、安永裕幸氏(経済産業省大臣官房審議官)による「技術系ベンチャー振興の課題と方策」でした。「なぜ日本ではイノベーションが生まれないのか? 何をどう改革すればよいのか?」という視点から、お話を伺いました。

政府の問題として、小手先の政策・予算、「流行」への過度な傾斜、グローバル視点の欠如、基礎研究からのリニアモデルに初期の深さの必要、新規市場創出への政策欠如があるという問題意識を提示していただきました。世界に向けて「技術で勝つ」モノを持っている日本で、大企業が尖った未来投資をしない傾向の間隙をぬって、あるいは成熟技術に最新技術を乗せるイノベーションによって、技術系ベンチャーが躍進する分野は多くあることを力説され、参加者一同勇気づけられました。

(2)安永審議官の基調講演に合わせたわけではありませんが、大企業からのスピンアウト型の技術系ベンチャー2社:飛鳥メディカル(株)(中村誠司社長、京都)、サイミックス(株)(吉川久男社長、長野)に対するコメントは、次の通りです。

■ 獣医工連携よる医療用レーザー装置の開発販売をしている飛鳥メディカル
SLTジャパンでレーザー装置開発に従事していた方々がスピンアウトして、2003年に設立された会社で、現在主として犬を中心とした手術用のレーザー装置を獣医工連携で開発している。農林水産省傘下の獣医師は小規模医院が多く、オーナー経営であるので、装置の購買決定が迅速に行われ、この分野では、日本の圧倒的なシェアをとっているが、市場が小さいので限界がある。そこで、医科用に進出し、厚生労働省から医科用のレーザーメス装置の承認をとり、前職時代の販売チャネルを活かした、販売拡大を図っている。レーザー領域は大手の事業撤退もあり、スピンアウト型ベンチャーの挑戦領域でもある。ただし、医療用機器の許認可スピードが極めて遅い日本であるので、海外の成長市場を狙って、迂回して日本市場を攻める方が、成長が早いのではないか。なお、日本の高齢化社会等の進展にともない、癒しのペット市場が拡大し、わが子よりもペットが可愛く、ペットの高齢化による手術の頻度が高くなっているので、獣医工連携を活かしたペット医療用レーザー装置の拡大余地がまだまだある。

■ 各種センサー関連の電子部品の開発をしているサイミックス
セイコーエプソンの半導体事業や通信事業に従事していた方々がスピンアウトして、2012年に設立した会社で、安心安全な社会を目指すために、CPS(Cyber Physical System)の構築を目指している。前職の経験を活かして、アナログ情報を、人感センサー、温度センサー等を活用してデジタル化し、無線通信技術を使って、インターネットG/W(ゲートウエイ)に繋ぐまでのセンサー部品や機器をファブレス企業として開発製造している。事業チームは、起業経緯から企画設計中心の方々であり、こういう分野に活用できるはずだというシーズ視点の考え方が強すぎる傾向がある。最終製品の活用現場の調査等により徹底した顧客ニーズ視点の開発企画提案に徹し、知財を確保しながら販売チャネルや最終顧客からのニーズ対応スピードで競争優位を保つなど事業特性を出さないと勝ち残れない。センサーを活用したCPS事業には、特定分野の技術開発型ベンチャー、センサー総合メーカー、さらにこれを活用する介護施設運営会社、大手ハウスメーカー、工場建設ゼネコンまで、バリューチェーンが長く、活用分野の領域が広い。起業して1年であるので、ぜひセンサー活用領域を、安永審議官の言葉を借りれば、「深く」特定領域に特化して、競争優位をまず確立するのが、CPS社会を実現する近道である。

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※「THE INDEPENDENTS」2014年1月号 - p6より