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「技術系ベンチャー振興の課題と方策」

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経済産業省 産業技術環境局
大臣官房審議官 安永 裕幸さん

1962年長崎県生まれ。1986年東京大学工学部資源開発工学科修士課程修了後、通商産業省入省(基礎産業局総務課)。機械情報産業局宇宙産業課、資源エネルギー庁鉱業課、米国コロラド鉱山大学留学(資源経済学修士課程)、資源エネルギー庁国際資源課、機械情報産業局電子機器課、通商政策局南東アジア大洋州課、商務流通グループ商政課、NEDO出向を経て、産業技術環境局に着任。原子力安全・保安院ガス安全課長、資源エネルギー庁鉱物資源課長を経て現職。

1.なぜ日本ではイノベーションが生まれないのか?
学術研究分野におけるノーベル賞、産業界ではファミコンやデジカメ、ハイブリッド車など、過去20年間で日本が生んだイノベーションはたくさんある。しかし日本経済を牽引する大きなイノベーションが生まれたかというと、私には疑問があります。

(1)政府の問題
・小手先の政策・予算で、「細切れ」「総花」「国でなくてもやれる」と言う指摘あり。
・「今の流行」に殺到し、「明日の花形」が育たない。「3Dプリンター」は何年も前からあったが、世間でもてはやされるまで課題と気付かなかった。
・グローバル競争への視点の弱さ。
・未だに「基礎→応用→実用化」のリニアモデル。「基礎研究」は「初期の研究」ではなく「深い研究」の筈。この部分では「目的基礎研究」で、企業だけでは実現するのが大変だから、大学や研究機関等を活用するべき。
・新規市場創出へ向けた総合的政策の不在。  
・産業革新機構にはもっとリスクを取って欲しい、という声が多いことも十分認識している。

(2)民間企業の問題
・大企業は「最低でも100億円から200億円の市場規模でないと新規事業をやらない」という姿勢。しかし新規市場はニッチから生まれる筈。
・自前主義、Not-Invented-Here、でも横並びで、真の異業種連携が進んでいない。
・研究開発人材が危ない。有為な人材が眠ったままで企業の中で朽ちつつある。
・リスクをとってチャレンジする企業が少ない。研究開発の視点も短期化(目先の投資)。

(3)大学・公的研究機関の問題
・この10年間、「スター研究者」の顔ぶれがほぼ一定。 
・成長分野の学生数が不足している。海外(IMEC、Albany-Nanotech) では1000人単位の学生が研究に従事。
・学会内の「タコツボ」化で、真に優れた研究者が異分野と積極的に「異種交配」を仕掛けていない。
・研究者は自信を持って「新課題」を見つけていない。
・小手先の産学連携がまだ跋扈(ばっこ)している。

2.何をどう改革すればよいのか?
「あんぱん」は、西洋の「パン」と日本の「餡」と「酒種酵母」が融合した日本独自の菓子パン。トップ研究者の“異分野融合”を進める事がこれからは重要。下記は異分野融合で「新しい」ものが生まれた例。もっと生み出さねば。
(1)MEMS(微小電子機械)(2)バイオインフォマティクス(生物情報科学)(3)メカトロニクス(機械電子工学)(4)光エレクトロニクス(5)ナノインプリント(6)インクジェット印刷による電子回路配線

3.平成26年度経済産業省産業技術関連概算要求の概要
(1)文科省のみならず、国交省等のユーザー官庁とも連携し、基礎研究から実用化まで一気通貫で実施する研究開発プロジェクトを重点的に推進する。
(2)ベンチャーキャピタルの機能が弱い我が国において、研究開発型ベンチャーの事業化・実用化を支援する。
(3)産業技術総合研究所による研究成果の事業化の推進
(4)産官学の連携によって、自前主義からの脱却を図るとともに、世界の知が集う研究開発拠点を整備する。つくばイノベーションアリーナ(TIA)では、産学官の研究者が集結し、研究開発の効率化を行うとともに、国際競争力のあるナノテク産業拠点「TIA-nano」を既に運営中。更にオープンイノベーションを推進したい。

4.最後に
日本の技術系ベンチャーの問題は技術よりビジネスモデルにあると言われる。確かに産総研発ベンチャーでも、明確な顧客、ビジネスモデルを決められていない会社がたくさんあるのは事実。しかし私はやはり世の中に新しい技術を投入し、新しいビジネスを生み出すベンチャーが必要だと考えている。圧倒的な技術を以って、圧倒的ビジネスモデルを作れば成功できる。ただ、それを政府が十分に支えてこれなかった点は反省点だと思う。

※全文は「THE INDEPENDENTS」2014年1月号 - p16にてご覧いただけます