アイキャッチ

「「十勝フードバレーへの期待」」

公開


國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

先日札幌で開かれた「THE INDEPENDENTS CLUB 北海道」に参加した。

この日は、まず第一部で事業計画発表が行われた後、第二部で、北海道・帯広の米沢市長から「北海道のフード・イノベーション」と題する講演があった。

実は、米沢帯広市長は、筆者の前職ベンチャーキャピタル会社・ジャフコの同僚で、日本のみならず、英国を中心とした欧州でベンチャー企業への投資を行っていたベンチャーキャピタリストだった男なのだ。帯広出身の彼は、3年前ジャフコを辞めて突然米沢市長選に立候補、見事当選を果たした。

統計によると帯広を中心とした十勝総合振興局地域は、北海道の東部、太平洋にも面し、そこから道央に南北に延びる地域で、面積は約1万平方キロ、局内の19市町村合計の人口は約35万人で5位、全北海道の人口544万人の6%強を占めている。

十勝の魅力は何と言ってもその豊富な農産物。十勝の35万人が生み出す甜菜、小豆、スイートコーン、長いも、小麦などの食料は約400万人分、その結果、食料自給率は1,100%に達する。ただ、残念ながらこれらの農産物は地元で加工されずに本州に出荷されており、地元での付加価値化は進んでいない。

米沢帯広市長の話では、農業・食料関連の事業と並行して、農業由来のバイオマスを利用したエネルギーの多様化も推し進め(「十勝バイオマス産業都市構想」の推進)、農・食・エネ自給社会の実現を目指していると言う。

2011年12月、十勝19市町村は、札幌市や江別市など北海道の他地域と共同で、「北海道フード・コンプレックス国際戦略総合特区」の指定申請を行ない、指定を受けた。その意味でも今後更なる新しい、革新的な取組が行われ易くなろう。

ご存知のように、面積は日本の九州程度しかなく、人口は1,500万人くらいのオランダは、「オランダ・フードバレー」と称し、食の科学とビジネスの一大集積地となっている。現在米国に次ぐ世界第2位の農産物輸出国でもあり注目されている。十勝もこのオランダに倣って「十勝フードバレー」という旗印の下に地域産業政策を推し進めている。 

これからの最大の課題は、如何に農産物の付加価値を挙げていくかであろう。このことは当面のTPP対策にも繋がる。農産物の付加価値向上、勿論それは簡単な事ではない。 

アベノミクスの成長戦略では、農業は6次産業化の推進などで成長分野になりうると考えられている。確かにその通りであろう。しかし、その具体策はおいそれとは出てこない。   

そのためには様々な人々の英知を集める必要がある。新規事業開発のメッカ・シリコンバレーは、世界中から技術や知恵をもった人々が集まり交流しているからこそ、継続的に革新的な事業が生まれているように思う。人が自由に交流する中で新しい発想も生まれる。十勝も日本のみならず世界から人々が集まってくるような街作りを考えて欲しい。

【特別インタビュー】「フードバレーとかち」が考える農業の成長戦略(帯広市長 米沢 則寿)
【特別インタビュー】「北海道フード・イノベーションを目指して」(北海道ベンチャーキャピタル三浦淳一)

※「THE INDEPENDENTS」2013年10月号 - p15より