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「「バイオベンチャーのビジネスモデル」」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

京都大学山中教授のiPS細胞開発でのノーベル生理学・医学賞受賞の影響で、株式市場ではバイオベンチャーが人気となり株価も高騰している。しかし、多くのバイオベンチャー、特に創薬系のベンチャーの足元の業績を見ると余り芳しいものではない。

ご存知ように、創薬開発には長い時間と資金が必要になる。

創薬の開発は、まず創薬になると考えられる候補物質を見つけ出すことから始まる。候補物質を見つけ出すための基礎研究の過程で平均的に数年かかる。

次いで動物実験を行う。それが前臨床試験と呼ばれる。その過程でまた数年を費やす。

動物実験の次が人間での実験、それが臨床試験と称される。その過程はフェーズ?、フェーズ?、フェーズ?の3段階に分けられる。健康な人への投与から始まり、少数の患者、そして数多くの患者での実験という形で進んでいく。この過程が5年前後、そして薬としての承認申請に至り、承認されると薬の値段、薬価が決められて上市ということになる。

基礎研究から市場で販売されるまで10年以上、資金は、特に臨床試験が進むほど大きくなり、基礎研究からのトータルでは数100億円に達するといわれている。

これだけの時間と資金がかかる創薬開発であるが、医薬になると上市後は特許に守れられ独占的に製造販売が可能で、開発費を上回る大きなリターンが得られることになる。

こうした創薬開発のプロセスの中で、日本のバイオベンチャーは、大学などの基礎研究機関から候補物質をライセンスアウトしてもらうと同時に、ベンチャーキャピタルなどから調達した資金を基に、臨床試験のフェーズ?あたりまでの開発を行う。その時点で大手製薬メーカーに開発中の薬を売ってしまう場合もあるが、多くはIPOを行い、得た資金でフェーズ?に進んで自社での販売に漕ぎつける、といったビジネスモデルになっている。

こうしたビジネスモデルでは、当初のベンチャーキャピタルなどからの調達資金、あるいはIPO時点の公募増資での調達資金が十分でなければ、それ以降の開発を進めて行けなくなってしまうし、IPOが上手くいったとしても臨床試験が長くなれば会計的には赤字が長期に続くことになってしまう。

一方、世界に目を転じてみると、日本と同様の創薬開発プロセスの中で、ジェネンテックやアムジェンといった大きな成功を収めたバイオベンチャーも少なくない。こうしたバイオベンチャーのビジネスモデルを見ると、遺伝子組み換え技術や抗体作成技術といった創薬開発に必要な基盤技術を有し、自社独自の創薬開発と並行して、その基盤技術を複数の大手製薬メーカーにも共同利用してもらいながら創薬の共同開発を行い、そこから何らかのフィーを随時得られるモデルを構築している。その結果、バイオベンチャーにとって開発当初の資金負担がかなり軽減され、成功確率も高くなることになる。

構造的に長期の開発時間と大きな開発資金が要求されるバイオベンチャーの成功のためには、他業界のベンチャー以上にビジネスモデルの工夫が必要だといえる。

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※「THE INDEPENDENTS」2013年6月号 - p18より