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「秘密保持契約:その2」

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弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士 柳下 彰彦 氏

1994年慶應義塾大学院理工学研究科物質科学専攻博士前期課程修了後、三菱化学株式会社入社、エンジニアとして電子写真感光体の研究開発に従事した後に、社内弁理士として同社知的財産部にて出願・渉外実務に従事。2006年から万緑国際特許事務所にて弁理士として稼働しつつ2009年03月桐蔭法科大学院夜間社会人コース卒業。2009年09月司法試験合格/11月 司法研修所入所(新63期)。2010年12月弁護士登録。2011年1月内田・鮫島法律事務所入所。2011年4月より桐蔭法科大学院客員教授(担当:民事模擬裁判、知的財産法)。

【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】 http://www.uslf.jp/

前回の続きです。以下の事例に基づき、秘密保持契約(NDA)の条項について、検討すべき基本的事項について説明します。

(事例)大手企業から協業の検討のために議論をしたいとの打診を受け、同企業の法務部が用意したNDAのひな型を渡されて契約締結を迫られたベンチャー企業(貴社)における対応

契約書の内容検討の前に、貴社のみが秘密情報を開示するのか、相手方(大企業側)からも秘密情報の開示を受けるのかの確認が必要です。前者の場合は、秘密保持義務を負うのは大企業側のみ(貴社は秘密保持義務を負わない)との契約にすることが好ましいです。

次に、秘密保持義務の対象となる秘密情報の範囲に、貴社が開示を予定している秘密情報が漏れなく含まれているかの確認が必要です。例えば、評価用のサンプルや見本を提出する場合、当該サンプル等も秘密情報に含めるべく契約書の文言の調整が必要になります。

また、秘密情報に含めるための手続的な面が貴社にとって遵守可能なものとなっているかの確認も必要です。例えば、秘密情報には「秘密である旨の表示(“confidential”表示)」をすることが義務づけられるのが通常ですが、開示する全ての情報に上記表示ができるのか、例えばサンプルを提出する場合にこの表示をどうすべきか(例えば、サンプルへの表示は不要とするのか)等の検討が必要になります。

口頭で開示される秘密情報の扱いについても注意が必要です。口頭開示された情報を秘密情報に含めるためには、「口頭開示から○日以内に開示内容を書面にして相手方に提出」することが条件とされることが多いですが、こうした条件を履行するのは現実的に難しいです。他方、大企業は契約条件で譲歩をしてくれることはあまりないので、この条件を契約から除外するのも難しいかと思います。この場合、情報開示は書面で極力行い、口頭での開示を避けるとの運用が必要になります。

また、大企業側の役員、従業員、又は関連企業に、秘密情報を開示できる旨の例外規定が設けられることがあります。例えば、「秘密情報を本契約の目的のために知る必要がある自己(大企業側)の役員、従業員、関係会社等に開示することができる。」という条項が設けられることがあります。検討すべきは、開示できる従業員等の範囲を制限すること、開示を受ける従業員等もNDAで規定される義務を負わせること、の2点です。

NDAの有効期間も留意して下さい。契約が終了したとたんに貴社の秘密情報の秘密保持義務が解消されるのは危険ですので、契約終了後NDA上の義務は一定期間存続させるのが通常です。ただし、貴社も相手方の秘密情報の秘密保持義務を負う場合には、貴社も同様の義務を一定期間負う必要があることに留意して下さい。

この他、秘密情報の所有権が移転しないこと、同情報をライセンスしないこと、情報の正確性等を保証しないこと等について条項を設けることもありますが、紙幅の関係からここでは割愛します。

―コラム:NDAのチェックの際は
NDAはビジネスパートナーとなる入り口で締結される、いわば「初動」にあたる契約です。それゆえ、本文に記載した事項を基本としつつ自社にとって不利な条項はないかとの視点での検討が重要です。とはいいつつも、判断に苦慮する等ありましたら、弊事務所にお気軽にご一報いただければと思います。

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※「THE INDEPENDENTS」2012年12月号 - p15より