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「「多様性の意義」」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

 先般の日経新聞に40歳定年を唱える東大の柳川範之氏の記事が出ていた。小さいコラムなので彼が提唱する40歳定年の真意は必ずしも明確ではないが、要は人生80年時代を迎え、40歳で一端退職して社会の変化に合わせて学び直し、その後の人生において自分をより生かせる仕事に就く方がその人は勿論のこと、企業にとってもプラスになるのではないか、ということらしい。

 基本的には筆者も賛成である。但し、すべての企業が40歳定年にする必要はなかろう。企業に組織としての人材育成機能がある、ないしは人材育成機能を企業に持たせるとすると、計画的に人材育成を図っていく上において定年制度は必要であろう。とはいえ、一律の年齢での定年制にすべての企業がする必要はなく、企業の事業、あるいは戦略によって60歳定年、50歳定年など、様々なタイプがあってもいい。

 そもそも日本では色々な意味で画一的は発想が強すぎたように思う。子供は難関校といわれる中学・高校に入れて出来るだけ偏差値の高い大学に進ませる。それが出来たら一流と言われる上場大企業に就職させるか、さもなくば公務員にさせて、子供に所謂安定的な生活を送らせることが親の務めだと一般的には考えられてきた。

 そうした考え方の中で、日本では確かに画一的な人材が数多く育てられた。そうした人たちにおいては、周りの人たちとの格差は小さく、故に周りの人たちと仲良くやることを求められたし、実際仲良くできる環境があった。こうした状況は、高度成長期から安定成長期にかけての時代、欧米にキャッチアップしなければならない時代の日本経済に大きなプラスの効果をもたらしたと考えられる。

 しかし、日本がフロントランナーになり、自分なりの強みをもって諸外国と競争していかなければならない時代、競争に打ち勝つ新しいものを生み出していかなければならない時代においては、画一的な人材は余り役に立たない。そこでは多様性こそが意味を持つ。多様な人材が集まっている結果として、そこにこそ何か今までとは違った新しい発想や考え方が生まれる可能性が高いのではいか。

 定年制の話に戻ろう。柳川氏の提唱する40歳定年の企業が出てくると、そこで働く社員は40歳に近づくと次のステップを考えなければならない。そのステップとして、改めてどこかの大学院などに入ってスキルアップを図るか、自身の能力確認を図った上で新たな就職先を探す人も出てこよう。当然、起業も次のステップの選択肢の一つになるであろう。彼らの起業は、一度企業と言う組織での働き方を知っているだけに、就職経験なしの起業に比べると成功確率の高い起業になるのではなかろうか。

 いずれにしてもこれからの日本にとって多様性の意義を強く認識する必要がある。最近大学で叫ばれているグローバル化も、本質は日本とは違った多様な生き方や文化を理解すること、つまり多様性の理解に他ならない。多様なものを受け入れる社会を目指したい。

【コラム45】バリュエーションの本質(秦信行)

※「THE INDEPENDENTS」2012年9月号より