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「2011年を振り返って」

公開


元野村證券株式会社
公開引受部 出原 敏 氏

野村證券で長い間IPO業務に係わる。2008年定年退職し、現在は非常勤監査役及びIPOコンサルティング等の業務に従事。

昨年のIPOは37社となりました。リーマンショックも徐々に癒え景気は少しずつ回復の気配を見せ、昨年後半にかけて株価も上昇が見込まれていましたが、 3月11日の東日本大震災によってこのシナリオは大幅に狂ってしまいました。

年初にはIPO社数は30社台と思われていましたので、結果としては健闘した方ではないでしょうか。

3月は 10社のIPO予定が、3社が中止の止むなきに至りました。その後4月、5月は0社が続き、6月から回復し始めたその矢先、夏場には円相場が80円を突破してきました。7月にはメビオファーム社がTOKYOAIM取引所に念願の1号企業としてIPOしました。しかし、残念ながらパフォーマンスは冴えないものとなっています。仕組み的に少し無理があるのかもしれません。

11月には東京証券取引所と大阪証券取引所が2013年1月1日を以て経営統合することに合意しました。具体的には今後検討していくことになりますが、新興企業向け市場も統合されることになるのでしょう。やっとと言うのか、やっぱりと言うのか、グローバル化の時代、止むを得ない方向でしょうか。

12月は12社の発表がありましたが、円高に加えタイの大洪水、ギリシャに端を発した欧州金融危機による株価下落のため、2社が中止となりました。3月に中止したうち2社はIPOを果たしており、昨年1年で中止となったのは実質3社でした。

昨年のIPOで特筆すべきは、ネクソン社とリブセンス社ではないでしょうか。実質韓国企業であるオンラインゲームのネクソン社は特異な経営形態に加えて、時価総額約5,500億円と大塚ホールディングス社以来の大型IPOとなりました。一方、リブセンス社の村上社長は25歳1か月でIPOを果たし、26歳2か月のこれまでの記録を更新しました。

秋には大王製紙の公私混同大借金問題、次いでオリンパスの飛ばし虚偽記載事件が発覚しました。いずれもコーポレートガバナンス不足が指摘されており、マザーズ及び在来市場への影響が懸念されます。

ところで、昨年の世界の出来事に目を向ければ、不思議とその多くが北緯38度線付近で起きているのです。38度線といえば韓国と北朝鮮の国境を事実上画する軍事境界線ですが、一昨年11月の北朝鮮より韓国延坪島への砲撃は、まだ両国が緊張状態にあることを改めて確認させられました。続いて38度線が北京の少し南を通る中国は、新幹線脱線事故など昨年も政治・経済と話題の多い国でした。西へ行くと、依然として中印パ紛争の地となっているカシミール地方をかすめ、タジキスタンからアフガニスタンの北部を通り、イスラム原理主義国家イラン北部からトルコに入ります。トルコはイスラム圏で唯一G20入りを果たした新興国です。10月には38度線上のトルコ東部ワンで大地震がありました。そしてエーゲ海を渡りヨーロッパに入ると、問題のギリシャの首都アテネは38度線上に位置します。アドリア海を渡ると、イタリアの最南部に達し、さらに地中海を西進すればスペイン、ポルトガルへと続きます。これらはいずれも今回の欧州金融危機の主役国です。この間38度線はイスラム革命の端緒となったチュニジアの沖をかすめるように通っています。大西洋を渡りアメリカでは38度線がワシントン近くを通ります。資本主義国アメリカのニューヨークでの格差反対デモは、資本主義の有り方について示唆させるものです。そして太平洋を渡って日本に辿り着くと、ご承知のように東日本大震災が3月に起こりました。38度線は仙台の少し南、阿武隈川の河口付近を通っており、東北3県の真ん中を通っています。

昨年は奇しくも北緯38度線を再確認させられた年でした。今年は欧州の混乱を引きずりながら、金正日総書記死亡後の北朝鮮の動向、アメリカ・韓国で大統領選挙、中国では指導者の交代があります(日本も?)。今年も38度線から目が離せません。

※「THE INDEPENDENTS」2012年1月号 - p19より