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「「2012年のキーワード」」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

 2012年が明けた。

 2011年は3月11日に起こった東日本大震災及びその影響による福島原子力発電所の事故に振り回された1年だった。震災に遭遇された方々には改めてお見舞いを申し上げると同時に一刻でも早い復興を願っている。

 ベンチャー・コミュニティにおいても2011年は余り良い年ではなかった。2008年のリーマンショックによる世界的な金融不安はギリシヤやイタリアの財政危機という形で尾を引き、日本にはドルあるいはユーロに対する円高という形で跳ね返った。それに伴う世界的な信用収縮は今も続いている。IPO市場は若干回復したものの、2011年の日本でのIPO社数は37社と直近のピーク2006年の188社に比べると遠く及ばない。

 とはいえ、2011年の後半あたりからITCの分野で若者を中心に新しい動きが見え始めたことは確かである。その勢いが今年さらに拡大し、活発化することを願っているが、ここではそうした動きを踏まえて2012年のキーワードを幾つか考えてみたい。

 まず最初が「グローバル」。既に言い古された言葉かもしれないが、改めてこの言葉を年初に強調しておきたい。ビジネスの世界においては「グローバル」を意識しないとビジネスそのものが成り立たない時代になっている。

 1949年山口県の一地方に生まれたメンズショップ企業は今やニューヨークの五番街に大型店舗を持ち、世界から優秀な人材を集めもの作りを展開する企業になった。この企業の興味深いところは、実は「グローバル」実現の戦略として「日本」を売り込むことを考えている点である。社長の柳井氏は日本文化=ユニクロ、このイメージを定着させることが「グローバル」に繋がると述べている。「グローバル」とは、「ローカル」の良さ、強みを再認識する事なのかもしれない。

 2つ目が「ネットワーク」と「コミュニケーション」。今や瞬時に世界の人々が、集団が、組織が繋がり、簡単に自由に話しができる状況になった。それは経済だけでなく政治をも動かしつつある。「ネットワーク」と「コミュニケーション」を実現するデバイス、手段は軽く簡単に持ち運びができ、ポケットに入る大きさになった。その威力は凄まじく、今後も革命に近い変革を世界にもたらすのではないか。

 最後、3つ目が「個」ないしは「個人」と彼らが持つ「知恵」と「創造性」。組織の力は確かに認めるがその持つ意味は相対的に小さくなっているのではないか。それに代わって「個」の力、あるいは「個」を生かしながら「ネットワーク」化されたチームないしはグループの力、彼らの「知恵」「創造性」がより大きな意味をもつ時代が幕を開けつつある。「個」が自由に「グローバル」に繋がり、チームやグループを形成して「知恵」を出し合いながら「創造性」を発揮する、そうした世界が拡大していく時代の入り口に来ているように思う。

※「THE INDEPENDENTS」2012年2月号より