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「AIM市場が開設」

公開


元野村證券株式会社
公開引受部 出原 敏 氏

野村證券で長い間IPO業務に係わる。2008年定年退職し、現在は非常勤監査役及びIPOコンサルティング等の業務に従事。

独断先行型の管政権がようやく退陣しました。長い14か月でした。この市民運動家上がりの政権はリーマンショック後の景気回復が望まれる中、政権発足当初から大波乱でした。参議院選挙の敗北、尖閣列島問題、北方領土問題、政治資金問題、大震災、原発事故、欧州の金融混乱、歴史的円高、引退間際のマニフェストの破りの妥協など、理想と現実のはざまで呻吟(しんぎん)を続け、成果らしいものはないまま、政権は退陣に追い込まれました。次の野田政権は党内融和を第一に発足しましたが、政権内に獅子心中の虫を抱えた状態では、いずれ内部崩壊するような気がします。残念ながら、産業界は引き続いての自助努力が求められるように思います。

この夏発行された経済財政白書によるとわが国の開業率は暫時低下し、廃業率を下回る状態です。労働力の高齢化が進む中、若年層の起業志向が低下し、開業者の高齢化が予想されています。開業者の平均年齢は2010年時点で42.6歳であり、最近では特に高齢化が進んではいないようですが、今後団塊世代の現役離脱で、60歳代での起業増が想定されています。事業内容は現役時代のノウハウを生かした、製造業、卸売、運輸、情報通信が比較的多いとされています。この年代は長期雇用慣行の中で企業に閉じこもり、退職後ようやく独自のアイデアを生かす機会を得、起業するといった方が多いようです。ただし、残っている時間があまりないことから、十分な成果が得られない可能性が高い、あるいは大胆な事業転換は難しいなどの難点があり、雇用も多くを期待されていません。やはり若年層の起業を望むものです。

さて、去る7月15日、待望の新市場AIMの上場1号が誕生しました。しかし、厳しい船出となりました。上場に際しての資金調達ができず、また、上場日は売り気配で始まり、5日目にしてようやく寄り付くという惨憺なものとなってしまいました。その後の流通市場でも順調とは言えない状況になっています。残念ながら、この市場にふさわしい投資家は未だ育っていないように思います。IPOは上場で終わりではなく、そこから始まる流通市場のことを念頭に入れておく必要があります。その点で取引所・幹事証券・J-Nomadの役割は重要です。新市場が初めから順調にいくことは稀ですので、今後時間をかけて育成することが肝要です。特に流通市場面の改善とJ-Nomadの存在価値が問われるように思います。

10月12日はJASDAQとヘラクレスが市場統合され、新JASDAQ市場が開設されて1年になります。開設後30社のIPOがありました(予定を含む)が、内訳はJASDAQ14社、マザーズ8社、東証1部・2部7社、AIM1社となっております。大証と東証では14社対16社となっており、ほぼ拮抗しているように思います。これで見る限り、JASDAQの大証入りは、企業の市場選択にはあまり影響はなかったように思えます。今後ともこういった状況が続くのでしょうか。

東証と大証の統合が検討されていますが、未だ方向性は決まっていないように見受けられます。株式市場は低迷を続けていますので、東証の今期上場はおぼつかない可能性があります。統合を急ぐのであれば、大証存続会社案が有力となりますが、東証はメンツがあるのでしょう。グローバルの時代とはいえ国内企業のためには、競争原理の働く複数市場体制が好ましいとは思います。

※「THE INDEPENDENTS」2011年10月号 - p15より