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「ベンチャー企業のための知財戦略入門(4)」

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弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
代表弁護士 鮫島 正洋 氏

1963年兵庫県神戸市生まれ。81年神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。85年東京工業大学金属工学科卒業。同年藤倉電線株式会社(現・株式会社フジクラ)入社。91年弁理士試験合格。92年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。96年司法試験合格。97年同社退職。司法研修所 入所。99年弁護士登録(51期) 大場・尾崎法律事務所 入所。2000年松尾綜合法律事務所(現・弁護士法人松尾綜合法律事務所)入所。 04年内田・鮫島法律事務所開設。
地域中小企業知的財産戦略プロジェクト(特許庁)統括委員長。

【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】 http://www.uslf.jp/

特許法において通常実施権者(ライセンシー)の対抗力を定めている特許法第99条が改正されます。これまでは、ライセンス登録を受けていないと特許権の譲受人にライセンス権を対抗できなかったのですが、今後は、ライセンスを受けていることを証明することによって、ライセンス権を対抗可能になります。

今回は、一見、地味な話題ですが、ベンチャー企業を含む多くの企業にとって、極めて重要であり、今回の法改正の目玉であるといわれている、特許法第99条の改正について述べようと思います。

今までは、せっかく苦労して特許権者から通常実施権(いわゆるライセンス権)を得ても、特許権者が当該特許権を第三者に譲り渡してしまうと、特許の譲受人に対してライセンス権が対抗できない、という問題がありました。これは、特許権者による特許権の譲渡によって、ライセンス権が無効となるということであり、今まで特許ライセンスのもとに行っていた行為が、ある日を境に、突然、特許侵害行為になるということを意味しますから、ビジネスの基盤を根底から覆すことになります。譲受人である新特許権者との再交渉によってライセンス権を得ることができたとしても、その労力やライセンス条件の悪化によるリスクは甚だしいといわれています。

従前、このような事態を防止する唯一の方法は、ライセンス権を特許庁に対して登録することでした(特許法第99条)。しかし、誰からどの特許についてライセンスを受けているというような事実は、ライセンシーにとっては高度な機密事項ですし、特許権の価値を低下させるライセンス権の設定事実を登録によって公示することを望まない特許権者も多かったといわれています。このような状況から、ライセンス登録制度の利用は限定的でした。

このようなことから、ベンチャー投資実務においては、第三者からの特許ライセンスを前提にして行われるビジネスをコアとしているベンチャー企業のビジネス基盤は法的に脆いものであるとされ、そのようなベンチャー企業に対する投資離れを呼んでいました。

今般の法改正により、特許ライセンスに関するこのような不安定な法的状況が回避されたと言ってもいいでしょう。つまり、ライセンス権者(ライセンシー)は、特許権の譲受人に対し、ライセンス権を有していること(ライセンシーであること)を証明することができれば、登録の有無にかかわらず、ライセンシーとしての地位を対抗できるようになります。これは、ベンチャー企業をして、ライセンス権を前提にしたビジネスをコアとしても、投資を受けられ、上場審査でも問題を生じないという、計りしれないメリットを有する改正であると言えましょう。

類似の問題として、特許権者からライセンスを受けていたら特許権者が倒産してしまった、というケースが考えられます。この場合も第三者対抗要件を具備していないと破産管財人によるライセンス契約の解除に対抗できません(破産法56条)。つまり、従前は、ライセンス登録を受けていないと破産管財人による契約解除に対しライセンスの地位を対抗できなかったのが、今般の改正により、ライセンシーであることさえ証明すればこれを対抗できるようになりました。

なお、この改正は、平成24年4月1日から施行開始ですが、施行開始日以降に締結されたライセンス契約に限定されるのか、などの重要な問題が残っています。また、本稿においては特許権についてのみ論じましたが、特許を受ける権利(登録前の特許出願)、意匠権、商標権に対しても同様に適用されます(著作権には適用されません)。

【ベンチャー企業と特許権】特許権の取得とビジネスの成功との関係( 柳下 彰彦)
【講演レポート】小説「下町ロケット」より 中小企業の知財戦略

※「THE INDEPENDENTS」2011年10月号 - p11より