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「「VCファンドのLP中小企業基盤整備機構への期待」」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

2007年以降、新規株式市場の低迷の影響などで、金融機関や事業会社などVCファンドへの出資者はかなり慎重になっている。その結果、新規のVCファンドの新規組成は大変厳しくなっており、VEC調査で見ると2009年度はファンド数で15件、金額で474億円と前年度比40%程度減少している。2010年度の数値はまだ得られていないが、多少は増加に転じたものと推測される。ただし、その水準は依然低く、このまま推移すると成長が見込まれるベンチャーへの成長資金の供給に支障が生じかねない。

VCファンドの民間の出資者がいずれも腰が引けている中で、独立行政法人中小基盤整備機構(以下中小機構と略)のファンド出資者(LP)としての役割に期待がかかる。中小機構は10数年前からファンドへの出資事業を始めた。主な目的は、ファンドへの民間資金の流入を促進するための呼び水効果を期待してのものだった。具体的には個々のファンド総額の50%を上限として中小機構が出資する形になっている。確かに中小機構からの出資を仰ぐ場合は、まずは民間からの出資を募る必要があるとはいえ、ファンド総額の半分を政府系機関が出資してくれる意義は大きい(現状60億円と言う絶対金額の上限はあるが)。

中小機構が出資するファンドは必ずしもVCファンドだけではなく、広く中小企業への資金供給のためのファンド(例えば再生ファンドや地域中小企業ファンドなど)となっているが、実績で見るとVCファンドへの出資件数、金額が一番多い。直近でみた中小機構が出資したファンド数は累計で150本弱、金額にして1,000億円を優に超える(民間からの出資分も含めた中小機構出資ファンドの総額は3,000億円強になっている)。その内のVCファンドは本数、金額で約半分を占めている。

中小機構が出資したファンドの足元のパフォーマンスは2008年のリーマンショック以降の景気悪化で余り芳しいものではない。しかし、中小機構が出資したファンドから投資した企業の内ここ10数年間に株式公開した企業が約100社、また投資先企業は2万人強の雇用を創出するなど、その成果は決して小さくはない。特に昨今のように、民間の出資意欲が大幅に減退しているような時期においては、中小機構出資の意義は大きい。

今年に入ってこの中小機構ファンド出資事業について一部制度改正が実施された。具体的には、出資の重点化を図るために対象ファンド種類が絞り込まれ、出資限度額は従来の30億円から60億円に引き上げられた。この結果、従来に増してリスクテイクを行いながらこの事業の社会的要請に答えていく体制が整えられた。

とはいえ、願わくはこの事業の更なる制度改正を期待したい。例えば、政策的な意義が大きいと思われるファンドに関しては50%という出資比率の例外的な引き上げを認めることや、民間資金を引き出すために中小機構出資のコミットを民間より早く出すことなど。確かに公的資金を活用するのであるから厳格な運用は勿論必要だとしても、この事業を社会的により意義のある事業にするための継続的な制度改善を望みたい。

※「THE INDEPENDENTS」2011年8月号 - p9より