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「特許法30条の改正―売れ行きを見てから特許出願が可能に!」

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弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
代表弁護士 鮫島 正洋 氏

1963年兵庫県神戸市生まれ。81年神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。85年東京工業大学金属工学科卒業。同年藤倉電線株式会社(現・株式会社フジクラ)入社。91年弁理士試験合格。92年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。96年司法試験合格。97年同社退職。司法研修所 入所。99年弁護士登録(51期) 大場・尾崎法律事務所 入所。2000年松尾綜合法律事務所(現・弁護士法人松尾綜合法律事務所)入所。 04年内田・鮫島法律事務所開設。
地域中小企業知的財産戦略プロジェクト(特許庁)統括委員長。

【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】 http://www.uslf.jp/

特許法上の公知とは、「1.守秘義務のない者が,2.その発明の内容を知得すること」を言います。右図を参照すると、試作外注はNDAを締結しない限り(1.を外す)、この条件を具備します。また、詳細原理等を新聞発表してしまうと公知になるので、発明の要点をごまかす(2.を外す)という工夫が必要でした。ウエブアップ、学会発表等も基本的には同じようにして,内容をぼかして公知にしないという方法が採用されてきました。そのような方策を採りながら、販売開始までには特許出願をする、というのがこれまでの常識でしたが、今回の改正により、今までできなかった「製品を発売して、売れ行きが良さそうだから特許出願をする」という作戦を採ることができるようになりました。

ただし、注意しなければならないのは、「自己の行為に起因して公知になった」ことを証明する書面を特許出願時に添付しなければならないことです。例えば、試作外注時にNDA契約の締結を忘れて公知になってしまった場合は、試作外注をした事実にかかる証拠(外注契約、物の引渡証など)が必要ですし、ウエブへのアップの場合は、アップされた記事を印刷して、公証役場で確定日付を取ることが必要になります。学会発表による公知の場合は、予稿集があれば問題はありませんが、ない場合は、当日の発表内容の録音等をテープ起こしする必要があるかもしれません。また、販売を開始した場合は、プレス発表記事などに、取引関係契約や取引書面(見積書、送り状、納品書)などが必要になることでしょう。従って、漫然と公知にしてしまったような場合、その証明ができませんので、改正法の適用を受けることができない可能性があります。公知にする際にも、その状況に関する情報の管理が必要だということです。

 また、海外では必ずしもこれに対応した改正はなされておりません。例えば、ヨーロッパでは、一切、新規性喪失の例外を認めていないため、日本で公知にしてしまうと、ヨーロッパでの特許取得は諦めざるを得ないということになります。(米国では一年間の例外期間が認められます。)

 さらに、公知にしてしまった発明を誰かが先に出願してしまうという行為に対して、この改正法は無力です。

 このように考えると、いざという時のみ改正法に頼ることとし、従前どおり、公知になる前に特許出願をするという原則は維持すべきでしょう。

【連載4】ベンチャー企業のための知財戦略入門(鮫島正洋)

※「THE INDEPENDENTS」2011年7月号 - p18より