「大震災とIPO」
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元野村證券株式会社
公開引受部 出原 敏 氏
野村證券で長い間IPO業務に係わる。2008年定年退職し、現在は非常勤監査役及びIPOコンサルティング等の業務に従事。
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3月11日の東北関東大地震は想像を超えた巨大なもので、悪魔の津波によって言語を絶する惨状となってしまいました。また、原発の被害により放射能不安と停電が発生、国民生活を大混乱に陥れました。自然の猛威を前に人間の営みの小ささを痛感させられると共に、空しさを感じました。しかし一方では、救助の方々、支援の方々、また画面の中の被災者の方々が、悲しみと困難な環境に負けず、前向きに取組んでおられる様子を見て、人間の営みの素晴らしさを感じた次第です。これからも苦難の道が続きますが、一日も早い再起・復興と亡くなられた方々のご冥福をお祈りするばかりです。さて、地震により株式市場は大暴落をしました。これにより立ち直りを見せていたIPOも影響を受けました。IPO予定会社は3月が8社、4月が2社あり、この分では年間30社台は確実とみられていただけに、出鼻をくじかれた格好となり残念です。IPO済みとなっていた会社は、長年の夢が叶えられたことにはなりますが、大幅な公開価格割れとなり、長くこの重荷を背負うことになります。また、上場日を待つばかりとなっていた、3月15日上場の島根銀行、アイディホーム社は、やむを得ないとはいえ厳しい船出となってしまいました。ピーエスシー社はブックビルディング中、アイ・アールジャパン社は募集期間中で、すでに一部の申込金が入金されている状態にあり、続行しました。公開価格等が比較的低位に決められており、暴落によっても十分に耐えうる水準と判断されたものと考えられます。一方、ラクトリア創薬社は早々に中止を発表しました。企業基盤が十分ではなく、成長性中心の株価形成が予想される会社にあっては、市場の方向性を確認する必要があったと考えられます。なお、上場審査基準では募集・売出しの決議の取消しを行うと、株主数・株式の分布状況等の基準を充足出来ないため、取引所は上場承認の取消しを行うことになります。4月以降のIPO予定会社は、マーケットが激変しましたので、今後の状況を勘案し判断することになりましょう。場合によっては利益計画の再確認が必要となります。
ところで、1995年1月17日の阪神・淡路大震災の時には、IPOは継続されています。当時はまだ入札制度でしたが、株式市場が大きく変動する中、多くの会社が公開価格を上回って寄付いています。もっとも前半は寄天(寄付き値(初値)が天井値(最高値))となったケースが多かったように思います。日経平均は震災の前営業日1月13日の19,331円から5日連続で8%の1,550円下がりました。2月1日に一旦18,868円まで戻した後、暫時下げ続け7月3日には14,485円の安値を付けています。しかし、年末にはここから5,400円程戻し、19,868円を付け震災前を上回って終わりました。この間政府は4月に約7兆円の緊急・円高経済対策、9月には約14.2兆円の経済対策を実施しました。そして、この年のIPO数は歴代3位の187社を記録しました。
今後のIPOについては、今後の経済対策及び企業業績に負うところが多いと考えられます。しかし、国の財政状況からは大規模な経済対策は難しいと考えられ、また震災に加えて原発、停電これに続く自粛ムードの景気への悪影響は必至ですので楽観はできません。しばらくは業績を確認しながらのIPOとなりましよう。その結果、今年のIPO数は昨年並みとなってしまうかもしれません。なお、3月10日に東証と大証の統合協議についての報道がありました。東証は自身の今年中の上場を前提にしていますが、今回の地震によって大証の存続会社案が有力になるかもしれません。IPO関係者にとっても早く市場統合の方向性を示してくれることが重要です。(2011年3月22日)
※「THE INDEPENDENTS」2011年4月号 - p11より