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「電動バイクのアジア戦略」

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TerraMotors株式会社
代表取締役 徳重 徹さん

1970年1月山口県出身。88年山口県立柳井高校卒業。94年九州大学工学部応用化学科卒業後、住友海上保険株式会社入社。2000年サンダーバード国際経営大学院にてMBA取得後、シリコンバレーのインキュベーション企業であるBusiness Café, Inc.代表として IT・技術ベンチャーのハンズオン支援を実行。10年当社設立、代表取締役就任。

住所:東京都渋谷区宇田川町34番5号サイトービルIII5階
TEL:03-6674-9558 設立:2010年4月 資本金:4.34億円
http://www.terramotors.co.jp/

※2011/12/16 インタビュー記事を全文公開しました

―テラモーターズをスタートした経緯を教えてください
シリコンバレーの友人たちから「ITをやっていた連中は今、皆EV(電気自動車等)をやっているよ」という情報があり、電動バイクにも関心を持ちました。もともと日本から世界展開するベンチャーを作ろうとコア技術を探していました。最初は僕もみんなと同様に「ヤマハやホンダに勝てるか」と疑問に思いました。ところが調べていくと「これは業界がごろっと変わる可能性があるな」と感じました。大企業の参入には時間がかかり、一方で自動車と比べてバイクやスクーターへの要求レベルは小さい。よって、ベンチャーに十分勝機があり、そして海外にはもっと大きな市場がある。それで2009年から電動バイク事業に関わり、2010年4月にテラモーターズを設立しました。

―商品開発はどのようにされていますか?
今年2月に同業である株式会社テコ(埼玉)と資本提携しました。目的は人材確保です。同社にはトヨタや日産自動車出身の優秀なエンジニアがいます。今後はマネジメント面を強化して、品質を維持しながらコストを下げていきます。

―生産における品質レベルはどのように確保されていますか?
EVでは自動車のアフターパーツを活用する企業がありますが、当社は中国製の部品を日本仕様にカスタマイズして現地で組立生産しています。日本からは品質管理のスペシャリストを派遣して指導しています。

―販売網の構築がポイントだったと思いますが
家電量販店ルート開拓のタイミングが良かった。地デジやエコポイントの次に来年は何を売るか、彼らが危機感を持っていた時期に、いち早く売り場を押さえる事ができました。店頭に置ける電動バイクはスペース的に2社までですから。スピード勝負でした。

―思い切って10万円を切る価格設定にされました
当時、電動バイクはあまり売れていませんでした。家電量販店や消費者にアンケートを取ったところ、電動バイクは10万円以下でないと魅力に感じないということがわかりました。そこでまず価格設定をしてから開発をスタートしました。

―最初にヨドバシカメラが取り扱いました
家電量販店と取引するには品質管理や供給体制などをきちんと整備する事が必要です。電動バイク市場へ参入する企業は多いのですが、数百万円程度の資本のベンチャーでは大手との取引は無理です。ヨドバシカメラが導入を決めるまでは大変でしたが、それからはビックカメラやDCMがすぐに取り扱いを始めました。

―供給スピードや生産量はどのくらいですか?
電動バイクの生産ラインは簡素で設備投資も少なくてすみます。1ラインに7人配置で1日100台まで組み立てられます。年間で5万?10万台にしようとすればそのラインを5?10本に増やせばよいだけです。部品点数も従来の1/4、さらにモジュール化されています。Dell(パソコン)モデルのようだと言われます。

―電動バイクを構成する部品で重要なものは何ですか?
圧倒的にバッテリーです。当社では台湾仕様の中国製が主ですが、業務用は日本製も使います。ネジやゴムなど耐久性が求められる部材は日本製です。

―ホンダやYAMAHAなど大手バイクメーカーについてはどう思いますか?
電動バイクに完全シフトするまでには時間がかかるのではないでしょうか?歴代トップはエンジン開発技術者が占めています。部品点数の減少は雇用問題にも直結します。大企業にはジレンマがあります。世界で見れば太陽電池市場のように、ベンチャー企業が急成長できる機会があると考えています。

―潜在的なコンペティターで脅威に感じるところはどこでしょうか?
中国に脅威を感じます。ただ中国BYDのような特徴を持つ会社はまだありません。日本の大手バイクメーカーにももちろん脅威を感じます。シリコンバレーでは大型バイクを開発している会社もありますが、私どもはスクーター市場を狙っています。

―差別化戦略はどのようにされていきますか?
差別化は難しいです。スマイルカーブ現象で言えば製造面では無理です。デザイン、ブランド、流通チャネルやメンテナンスという上流と下流行程を押さえる事だと思います。IT業界的に言うと「一番早く市場を取る会社が勝つ(Winner Take All)」です。

―プロトコーポーレション(JQ:4298)と提携されました
同社の持つ二輪バイク販売店のネットワークを生かして「電動バイク卸仲介サービス」を開始しました。量販店だけではカバーできないメンテナンスや部品供給の問題がバイク店の活用で解消されます。メンテ面では電気系統の整備ができるイエローハットのFCとも提携しています。

―海外市場の展開はどのように考えていますか?
ホンダの2輪車売上1兆5000億円の内、日本市場の比率は2%しかありません。欧州、北米も同程度です。僕はこの事業を始めたときから海外展開を見据えていました。アジアでは原付バイクは「かっこいい!」というイメージがあり日本とは市場性がだいぶ違っています。

―アジアではどう競争力を発揮していきますか?
中国は差別化要因が価格になりがちです。それよりも東南アジアを考えています。バイクの9割近くを日本製が占めており十分チャンスがあります。インドも市場が大きくて面白いと思います。日本で1千台売るのと、インドで1万台売るのとどちらがよいか、私は後者だと考えています。

―四輪と比較すると二輪のEV化の経済的なメリットは少ないと思いますが
日本では確かに経済的メリットがインセンティブにはなりにくい。ただ東南アジアは別です。原油はグローバル価格になり割高です。ベトナムでも消費者物価を考えると1リットル80円です。新興国にいくほどEV化による経済的インパクトは大きくなります。

―若い人から大企業OBまで積極的に人材活用されていますね
一流大学出身の新卒者が入社するようになりました。TOEIC800点以上あり起業家精神旺盛な彼らが、国内からベトナムやインドまで販売網作りを行っています。最近ありがたいのはソニーやヤマハOBの方々の支援が増えてきた事です。彼らの人脈や経験が海外戦略や生産現場でとても役立っています。

―生産や販売は海外で行うとなると日本本社の役割は何になるのでしょうか?
ひとつはメイドインジャパンというブランドを作ることです。もうひとつはモーターやバッテリーなどコア部品における技術開発力を日本国内で持ちたいと思います。

―資本政策はどう展開されますか?
事業基盤は整いつつありますが、これから大きな投資金額が必要です。アジアで成功事例ができたら大きく勝負したいと思います。現在のシェアは95%自分です。今後は従業員向けストックオプションやVC向け本格的FSを考えてきます。

―ところでシリコンバレーに行ったきっかけは何ですか?
実家は歴史のある材木商でした。祖父の影響で私は起業志向が強かったのですが、父は大反対で住友海上火災保険に入社しました。しかしどうしてもシリコンバレーで起業を学びたかったので、アリゾナのサンダーバード大学でMBAを取得してからIBI(International Business Incubator)というシリコンバレーにある有名なインキュベーション施設で仕事を始めました。

―シリコンバレーではどのような仕事をしていたのですか?
日本から起業家が1人でアメリカに来て英語もさっぱりできない状態を、私が営業から資金調達までフルサポートをしました。最初は無給で毎日朝から晩まで働きました。その時にゼロから一人で事業を立ち上げた経験は自分自身の財産であり自信に繋がっています。

―好きな本は「坂の上の雲」だそうですが
普通ではロシアに勝てる見込みがないのに、気概のある人たちがとても戦略的で理詰めで挑んだところです。高橋是清のファイナンス面や、日英同盟というアライアンス、リストラを断行して若い優秀な人を採用した山本権兵衛。勝機を見出したら一気呵成に攻めていく児玉源太郎。勝つための戦略、そして挑戦する気概がなければ何事も実現できません。

―新入社員のコメント(事業開発グループ 林 信吾 さん)
インターン生として設立から参画し、2011年4月から正式に入社します。テラモーターズの事業が、発展途上国の雇用創出に貢献するという私の目標と合致したのが入社理由です。人と違うことをする性格も影響していますが(笑)。Born Globalなこの会社で、創業時から働ける事はチャンスであり、チャレンジしがいもあります。私個人としては、スタートアップ企業に新卒入社して成功したロールモデルになり、次世代の方に影響を与えられるような存在になりたいと思います。

【特別寄稿】日本の若者の変革力に期待しよう!!(松田修一)

Interviewed by independents 2011.2.8


※全文は「THE INDEPENDENTS」2011年4月号にてご覧いただけます