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「「動き出すか、海外上場<br> 閉ざされた日本のIPOにしびれ切らすベンチャー続々!?」」

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ベンチャー企業の視線が海外に向かっている。一つには、海外上場の本格化。福井県の半導体製造装置メーカーがこのほど、台湾での上場手続きに入った。ある小売業のベンチャーは、韓国での上場が近く承認される見通しという。また、ネット・IT系ベンチャーを中心に、海外での事業活動開始の動きも目立つ。

「厚膜シリコンウエハーのKST日本勢初台湾上場へ中国など開拓」。11月9日の日本経済新聞朝刊にこんな見出しが躍った。記事によると、「光通信部品の材料に使う酸化膜の厚いシリコンウエハーを手がけるベンチャー企業、ケイ・エス・ティ・ワールド(KST、福井市)は台湾株式市場に上場を申請することを決めた。(中略)KSTは9日、上場のために必要な地元証券会社の指導を受けることを証券当局に申請。2011年半ばに新興市場に上場し、12年半ばの店頭登録を目指す。」

同社は、福井県の地場産業である繊維加工業を手掛ける川崎産業の新規事業が振り出し。別会社として切り出し、フューチャーベンチャーキャピタルや米国のグローブスパン・ベンチャーキャピタルなどが出資している。関係者によると、当初は国内上場も検討していたが、昨今、日本の証券市場での新規株式公開(IPO)がほぼ閉ざされているため、海外市場に目を向けたようだ。海外の中でも、台湾を選んだのは、かねて、台湾企業と取引があったためであろう。ある証券会社によると、台湾の株式市場では、ITや半導体関連企業の評価が日本よりも高いとされる。

一部の情報によると、韓国の証券取引所に対しても早ければ11月中にも、日本のベンチャーの上場申請が受理される見通しという。韓国市場は、東証に比べて、内部統制などの審査基準が実質的には緩やかで「結果として上場コストも低い」(韓国市場の上場手続きに詳しい経営者)という。

この2、3年、韓国や香港、上海、シンガポールなどから、証券取引所や証券会社、監査法人などが相次いで、IPOを勧誘するため、訪日してセミナーを繰り返し開催していた。国内上場が困難さを増す中、ようやくベンチャー企業も海外上場に動き出した。

上場後の株式の売買について支援する動きも出てきた。アジアに強いとされるある中堅証券会社は、海外市場への上場を準備するベンチャー企業や株主であるベンチャーキャピタルや従業員持ち株会などに対して、営業をかけ始めた。自社に口座を開けば、現地の証券会社につなぐため、通常の国内株と同じように売買できるという。大株主によるIPO後の株式売却を円滑に進め、売買高を一定水準に保って、セカンダリーでの増資を実現するためにはこうした証券会社のサービスも不可欠だ。

海外市場での上場に"慣れる"ことを目的の一つとして、海外企業に投資しているベンチャーキャピタル(VC)もあるようだ。2010年の投資先上場のほぼすべてが海外企業の海外市場への上場だというあるVCは、「この経験を生かして、今後、国内の投資先を海外市場で上場するように指導・支援していきたい」と語っているという。

海外上場にあたっては、事業をその国で営んでいることが望ましい。それを見越して、海外での事業展開を急ぐ動きが、未上場企業でも活発になっているという。ベンチャーに特化した人材紹介を手掛けるある人事系コンサルタントは、「米国やアジアでの勤務経験を持つ商社出身者への引き合いが特に目立つ」と話す。

「意欲あるベンチャー経営者は日本にこだわるべきではない」。11月中旬に開かれた日本ベンチャー学会のパネルディスカッションでもこんな発言が飛び出した。「雇用、雇用」と叫びながら新しい雇用を生み出すベンチャーに冷淡な政府をはじめ、資本市場やマスコミ、官に足を引っ張られる必要はない。どんどん海外に出よう。

※「THE INDEPENDENTS」2010年12月号より