「マッチングサイトの事業戦略」
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軒先株式会社
代表取締役 西浦 明子さん
1969年神奈川県生まれ。87年フェリス女学院高等学校卒業。91年上智大学外国語学部卒業後、ソニー(株)入社。海外営業部に所属。94年ソニーチリに駐在、オーディオ製品などのマーケティングを担当。2000年、同社を退社後帰国。創業時のAll About Japanで広告営業を経たのち、01年(株)ソニー・コンピュータエンタテインメント入社。商品企画部にてプレイステーション2やPSPのローカライズ、商品開発などを担当。06年同社を退社後、(財)日本国際協力システムで政府開発援助(ODA)関連の仕事に携わる。07年、出産を機に同財団を退団。約半年の構想準備期間を経て、08年4月に軒先.comを立ち上げる。
住所:東京都千代田区大手町2-6-1 朝日生命大手町ビル3F fabbit大手町
設立:2009年4月23日 資本金:2,800万円
http://www.nokisaki.com/
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「軒先.com」は、空きスペースを貸したい方と、使いたい方を結ぶマッチングサイトである。使っていないスペースや時間帯を貸し出して、1日単位でお店を開いたり、作品を展示したりすることができる、画期的なサービスである。―空スペースを貸すのはどのような方ですか?
西浦:法人がほとんどです。不動産テナント管理会社やホテル・飲食業・駐車場運営などの事業会社が、営業時間外やデッドスペースの一部を貸し出します。
―「軒先」という言葉からは屋外スペースをイメージしますが。
西浦:実は商業施設などの屋内スペースの貸し出しが結構あります。店舗撤退後のスケルトン状態など、だんだん大きなスペースを貸す方が増えてきています。
―アイドルタイムとデッドスペースでの貸し出し比率は?
西浦:長期契約できない時間帯や期間を、短期間にうまく活用したいというアイドルタイムの利用と、他に用途がないデッドスペースでは半々です。景気に影響されず、恒常的な利用者が増えてきました。
―起業のきっかけは何ですか?
西浦:出産です。産後に自分の時間ルールで大きな組織の中で働くのは難しいだろうと判断してODA関連の会社を辞めました。そこで家の中でもできる趣味の雑貨などの輸入販売をやろう、まずはテスト販売をしよう、と二子玉川や青山で短期間借りられる場所を探しました。しかしセミナールームなどはあっても販売ができる場所はない。不動産屋も扱っていない。あっても3坪で週21万円とものすごく高かった。さらにそこは半年先まで予約でいっぱいでした。素人ながらこれは尋常じゃないと感じました。需要に供給が全く追いついていないのだろうと仮説を立て、気軽にスペースを借りられる仕組みがなければ自分が供給しようと思ったのがきっかけです。
―アイディアはあっても実行する人は滅多にいませんが
西浦:一か八か分からないが世の中に形として出して、駄目なら辞めればいい、けれどやってみたら絶対面白いはず。そう考えました。実行に係るウェブサイト構築なんてそこまでお金がかからない。仕入れも発生しないので。そして、もうひとつの大きなきっかけは夫でした。
―旦那様が賛成されたのですか?
西浦:彼は20代で起業してから20年以上不動産会社を経営しています。私のサラリーマン人生とは全く正反対です。そんな旦那に相談してみると「やってみれば」といとも簡単に言われて驚きました。従来の不動産業とは対極にあるビジネスなので、最初は彼もびっくりはしましたが、「確かに誰も手をつけていない不動産のニッチ市場だから面白いしやってみれば」と。「やってみなければわからないよ、なんでやらないの?」くらいの感じでした。
―世の中にないビジネスの価格を決めるのは難しかったのでは?
西浦:値決めは本当に悩みました。採算ラインは最低利用料1000円です。利用額に応じた従量制も検討しましたが、新しいビジネスの場合、価格体系はシンプルな方がいいと考え、一律35%に決めました。
―利用単価はどのくらいですか?
西浦:パチンコ店の駐車場半日800円から、ビル一棟を一日10万円まであります。最初の受注は、一日3000円のランチ販売のスペースでした。移動販売車を顧客サービスの一環としての貸し出されるケースから、ロケ撮影やカンファレンスまで用途は様々です。
―利用者はどのような方ですか?
西浦:メインはBtoBです。物販業が多く、基本的にはプロの方です。エリアと予算が最初にあり、常に新しい販売場所を探しています。個人の方も若干数います。これまでフリーマーケットなどで出店されていた方が「軒先.com」のスペースを使って新しい場所で営業を始められたり、接客訓練をされているようです。
―利用単価を上げるのと利用件数を増やすのと、どちらに力を入れていきますか?
西浦:良い場所を押さえれば単価も件数も両方ついてくると考えています。1日10万円でも20万円でも売上100万円になるのであれば、高くても借りる人はいます。今後はイエローハットやルネサンスなど全国チェーン会社との提携で登録件数も増やしていきます。
―利用状況はいかがですか?
西浦:ユーザーの8割がリピーターです。専門に商売をされている方が多いのが理由だと思います。物件数は300件ぐらいです。成約件数も月に300ほどです。人気のスペースに集中するので上位10件で成約の半分近くいくこともあります。
―差別化戦略はどうお考えですか?
西浦:サイト構築は誰でも出来るし、物件情報を多く持つ企業もあります。ただ、サイトに人を呼ぶ、物件にお客様をつける、となると全然次元が違う話です。いかにユーザーを囲い込めるかが差別化要因になります。弊社は現在800社のユーザー登録があります。その方々に対し付加価値のあるサービスを提供していきたいと思います。例えば什器レンタルや商材の紹介など、ワンストップで出店に必要なものを提供することもひとつでしょう。スタッフの手配や出店の告知サポートもあるかもしれません。いかに利用者の視点に立ったサービスを提供できるか、です。
―登録場所に関しての情報提供はどのようにされていますか?
西浦:スペースの写真や情報のアップロードは貸主が基本的にはします。ただ弊社で営業開拓したものは弊社の営業マンが行います。物件に関するコメントも貸主が記入するものもあれば弊社のもあります。
―これまでに貸し手や利用者とのトラブルはありましたか?
西浦:よく質問をいただきますが、これまでトラブルらしいトラブルはほとんどありません。カレー屋に対して匂いがきつかったという貸主のクレームぐらい。トラブルが少ない理由は、ユーザーがプロであり、コンプライアンス意識が高い方が多いからだと思います。貸主に一番気を使うのは器物の破損です。それに対処するために手は打ってあります。弊社が一括して損害保険に入り、ユーザーには利用後の状況を写真転送していただきます。幸いなことに今まで物損などは一度もありません。
―トラブルを防ぐ仕組みが随分と整備されているようですが。
西浦:貸主からの要望を受け、少しずつ機能や約款を追加整備していきました。保険も既存のものでは対応できないので、弊社向けに少額短期保険を作りました。1年包括支払で、1回の事故で5000万円までの物損をカバーします。
―FSに関しては、サムライインキュベイトが株主になりました。
西浦:2010年1月に出資頂きました。大手VCからは検討ステージには早すぎると言われたのですが、「アーリーステージに特化したインキュベーションファンドを紹介する」とサムライインキュベイトの榊原氏とお会いしました。最初にあった時から息が合い、セレネベンチャーパートナーズ和田さんと5百万円ずつ出資いただきました。同時に私も出資し、筆頭株主は私で半分強です。資金使途はウェブサイトのリニューアルと物件開拓の協力パートナー開拓のためです。今は損益分岐点越えまでもう少しのところです。
―今後の事業計画はどのようにお考えですか?
西浦:空スペース登録の拡大施策を大きく変えようと考えています。直近の目標としては物件数300件を一桁増やし3000件にすること。そのための施策を練っているところです。全国と言いながら現状は首都圏中心なので、地方展開が課題です。全国チェーン店との提携も魅力的ですね。大手チェーンの業務代行的な立ち位置でもよいと思います。
―この事業のポイントは何でしょうか?
西浦:1番は商品力。良い物件があれば利用する人はいます。まずは品揃えを充実させていくことが鍵になります。あとはプロデュース力です。空いているスペースをぱっと見せるだけでなく、どう利用すれば良いかきちんと提案してあげることです。
―出資受け入れ後のVCはどのような関わり方ですか?
西浦:榊原氏と和田氏は毎週経営会議に参加され、PDCAの確認や中長期戦略を一緒に検討いただいています。いろいろな方もご紹介いただけ、私達が届かないようなところのお知恵をいただくことも多い。このお二方との出会いは本当に良かったと思います。
Interviewed by The Independents. 2011.2.3
推薦者のコメント(株式会社サムライインキュベート 榊原 健太郎)
以前より空きスペースや賃貸の仲介ネットサービス市場に関心を持っていました。他VCの方からのご紹介で西浦社長にお会いした第一印象は、朗らかで安定感のある感じでした。その日に意気投合し、出資させて頂くに至りました。現在は毎週1回の戦略定例mtgに参加、人材やアライアンス企業の紹介等でもご支援させて頂いております。この事業には、移動型店舗情報のリアルタイム発信等、様々な可能性があると考えています。将来的に、空きスペース(もったいないスペース)の有効活用という文化を日本や海外に根付かせていただくことを期待しています。
※全文は「THE INDEPENDENTS」2011年4月号にてご覧いただけます