アイキャッチ

「「新興市場回復のための方策」」

公開


國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

株式新興市場の低迷が続いている。

東京証券取引所マザーズ指数は、10月15日終値で346.08と2006年の高値2799.06の12%の水準に過ぎない。何と90%近い落込みになっている。今年に入って春頃若干の回復が見られたものの、夏以降再び大きく下落している。10月12日に大阪証券取引所のヘラクレスと統合した新ジャスダック市場も冴えない。現状のジャスダック指数は、50を割込んでおり2006年のピークの3分の1程度の水準に過ぎない。昨年全市場で19社、新興市場だけだと13社であった新規株式公開企業数も、当初の見通しよりは少なく、昨年並みではないかと言われている。

こうした状況を踏まえて、先般日本証券業協会で新興市場の活性化に向けた懇談会が開かれた。出席したのは、経済産業省、証券取引所、引受証券会社、機関投資家、VC関係者、上場新興企業などの方々で、新興市場の関係者がほぼすべて出揃った会合であった。私も出席させていただき何点か気になる点について発言させていただいた。懇談会では、幾つかの方策は提示されたが、即効的な妙案は出なかった。ただ、関係者一同日本の新興市場の低迷について、いずれの方々も深く憂慮されていることは伝わってきた。

今回の新興市場の長期の低迷の大きな原因が、新規に株式を公開し上場した企業の、上場直後の事業計画の大幅な下方修正やとんでもない粉飾決算など、所謂不祥事が相次ぎ投資家の不信を買ったことにあるのは間違いない。従って、市場の活性化にあたっては、まずは投資家の不信感を払拭する必要がある。

そのための方策の一つは、上場基準・審査基準を厳しくし、新規公開企業を絞ることであろうが、しかし、それでは新興市場としての意義はなくなってしまう。

的確な方策を考え出すことは難しいが、投資家の信頼回復に向けてとりあえずやるべきことは、市場関係者いずれにも、応分の責任があるという姿勢を示すことであろう。特に、一連の不祥事に関して、悪いのは企業家・経営者であって、周りは被害者だといった姿勢が見え隠れするのは大変まずい。関係者いずれもが責任を感じた上で、再発防止に向けた施策を皆で検討・議論していくことが求められよう。

ジャスダックを除くマザーズやヘラクレスなど本格的な新興市場が日本に誕生して約10年、今回の低迷は初めてといってよい事態といえる。このまま新興市場の低迷が続くと、新興企業=ベンチャー企業の成長のための資金調達に問題が出てくるだけでなく、VC投資の資金回収が滞るために、新興ベンチャーの未公開段階での資金調達、特にVCからの資金調達にも支障をきたすことにもなりかねない。

周知のように、現在日本のベンチャーに対して、アジアの証券市場からの上場勧誘の動きが活発化している。こうした動きに対抗するためにも、関係各位の議論を盛り上げ、日本の新興市場に対して何らかの具体策が打たれることを期待したい。

※「THE INDEPENDENTS」2010年11月号 - p16より