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「「APEC、女性起業家支援で会議相次ぐ<br> 女性キャピタリストにも期待」」

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今年11月、横浜市で、日本では15年ぶりに、アジア太平洋経済協力会議(APEC)が開かれる。中旬の首脳会議を前に、関連するさまざまな会合が日本を中心に各国で開催されているが、特徴のひとつは中小企業や女性起業家に焦点を当てた国際会議が目立つことだ。日本では起業が少ないうえに、女性起業家となるとさらにまれ。10月1日に岐阜市で開かれた「APEC女性起業家サミット」とそれに先立ち、9月19?21日に東京・新宿で開かれた、「APEC女性リーダーズネットワーク(WLN)会合」での議論を通じて考えた。

「APEC女性起業家サミット」は今年のAPECのホスト国である日本と来年の米国の共催で運営された。ヒラリー・クリントン米国務長官のビデオメッセージも上映された。 もう少しで女性大統領が生まれるかもしれなかった米国では、企業経営者のおよそ3割が女性だという。それらの企業群がおよそ10年で50万人の雇用を生み出したとも言われる。翻って、わが日本はどうか。帝国データバンクの調査によると、日本の社長のうち、女性は約6万7000人という。社長全員に占める割合は6%程度にとどまる計算だ。

彼我の差は、何に起因するのか。いくつもの理由はあるだろうが、シンポジウムの中で言及されていたことの一つは、政府調達において全体の一定割合を、女性が経営する中小企業から仕入れるという施策が取られていることだ。州レベルでも同様の政策がとられているところもあるという。米国では、SBIRと呼ぶ制度に基づき、政府が中小・ベンチャー企業から優先的に調達しているというが、さらに女性経営者も優遇しているというわけだ。マイノリティー(社会的少数者)の保護・支援に熱心な米国の社会制度が女性起業家にも及んでいる。

ベンチャーキャピタリストに女性が少ないのも問題ではないか。大塚食品などの持株会社である大塚ホールディングスの東條紀子常務はそう指摘する。半導体大手インテルの投資部門インテルキャピタルで働いていた東條氏に言わせると、「女性キャピタリストにはほとんど会ったことがない」そうだ。

ビジネスの現場に性別は関係ないとの考えもあるが、「女性同士のほうが相談しやすいこともある」(創業8年目の環境関連ベンチャー経営者)という声があるのもこれまた事実。女性キャピタリストの拡大が女性起業家の活性化に結びつく可能性はありそうだ。
「APEC女性リーダーズネットワーク(WLN)会合」の最終日の基調講演を務めたのは、41年前に電話相談を事業化した女性起業家の草分けの一人、ダイヤル・サービスの今野由梨社長。日本電信電話公社(現在の日本電信電話=NTT)にたった一人で戦いを挑んだ今野氏の立志伝は昨年、NHKでドラマ化もされた。1936年生まれの今野氏は、「女の子は大学に行く必要がない」などと言われるような社会情勢の中から起業した。

今野氏のケースと時代が違うと言われそうだが、「APEC女性起業家サミット」で衝撃的な発言を聞き、女性起業家支援は日本においてもまだまだ必要だとの認識を強めた。出席していた経済産業省の65歳の大臣政務官は「(性別に応じた)役割分担は美しい文化だ」「日本の女性は家庭で働くことを喜びとしている」などと会場の女性を驚かせる発言を連発した。政府の要職を務める国会議員の女性起業家イベントでのこうした発言は、女性起業家への支援が政策として必要であることを裏付けることになった。

人口の半分を占める女性の活力を引き出すことが日本経済活性化につながることは明白だ。両会合の議論を踏まえ、女性起業家支援の政策の必要性が、APEC首脳会合に提言されることが決まった。日本政府はどのような具体策を打ち出すのだろうか。

※「THE INDEPENDENTS」2010年11月号より