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「「バングラデシュでの起業はいかが<br> 投資効率の大きい次世代の成長市場」」

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9月中旬に、2つの表彰式に参加する機会があった。1つは、ダボス会議を主催する世 界経済フォーラムと連携する「ソーシャル・アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー(SEOY)」、もう1つは日本青年会議所を中心に行われた「人間力大賞2010」である。実は、この2つの表彰式でそれぞれ最高の賞を受賞した人には共通点があった。バングラデシュで起業した若者であるということだ。2人とは何度か会ったことがあるが、日本にいる同世代の若手起業家と比べて、突出して優れていると感じたことはない。日本人であることを含め、自分自身の能力が相対的に高く発揮される海外を舞台に選んだこと、それ自体が彼らのバリューをさらに高めている。成功を目指す起業家にとっての最適解の1つを示しているのではないだろうか。

SEOYで大賞を受賞したのは山口絵理子氏。バングラデシュの特産品である麻(ジ ュート)を使ったバッグなどを販売する「マザーハウス」を2006年に創業した経営者だ。大学在学中から、開発経済の道を志し、国際機関への就職を目指したが、現場での活動の重要性を悟り、活動を始めた。発展途上国の生産者の生活向上を念頭においた商品取引であるフェアトレードが浸透していたこともあり、比較的所得の高い人たちや知識人の間で人気化。日本での店舗も順調に増やし、今年8月には銀座店もオープンした。現地工場では200人の雇用を生み出し、女性の生活向上に貢献している。

人間力大賞2010を受賞したのは、NPOエクマットラの創業メンバー、渡辺大樹 氏。大学生時代にヨット競技で訪れたアジアの国で、十分な養育や教育を受けていない子供たちが街中に溢れかえる様子に衝撃を受けた。いわゆるストリートチルドレンである。この問題が最も顕著な国の1つであるバングラデシュを活動の場に定め、2004年に設立。主に教育支援に取り組んでいる。今年8月には、ストリートチルドレンのための自立支援センター「エクマットラアカデミー」の建設に着工した。

こういっては失礼だが、いずれも、最貧国のバングラデシュだからこそ、比較的容易に成果を挙げることができた事例とも言える。背景にある日本側のマーケットや資金支援などとの格差が彼らを成功に導いた。

バングラデシュの潜在的な経済成長性を考慮すれば、事業としての今後の成長性にもお墨付きがある。ユニクロを展開するファーストリテイリングは今秋、バングラデシュで、ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス氏が率いるグラミン銀行グループと合弁会社を設立する。雇用創造という社会貢献が目的というが、2020年に売上高5兆円を目指すユニクロの狙いはそれだけではないはずだ。米自動車大手フォード・モーターの創業者、ヘンリー・フォード氏が「給与を増やし、従業員を顧客にする」と語ったのと同じ未来予想も描いていることは想像に難くない。

ソフトバンク社長の孫正義氏はかつて、ヤフーなどインターネットビジネスに取り組む際、先行して米国で始まったビジネスモデルを日本に持ち込む「タイムマシン経営」を標榜した。優れたアイデアや経験を出遅れている地域に持ち込めば、新たなビジネスをゼロから構築するのに比べて、様々なノウハウが活かせる分、成功確率が高まるのは、当然の理だ。

同じ努力をするならば、潜在力のある成長市場で努力したほうが大きなリターンを得られることも明らかだ。世界銀行の予想によると、バングラデシュの経済成長率はやや調整局面にあり、2010年で5.5%という。人口は1億5000万人強で、首都ダッカを中心とする局所的な成長率はさらに高い。若き起業家のみなさん、バングラデシュに限ら ず、海外に出よう。起業家の挑戦的な試みをなかなか受け入れない日本にこだわる必要はない。うまく行かなければ日本に戻ればいい。僅かなリスクテークで成功者への道は格段に開けてくる。

※「THE INDEPENDENTS」2010年10月号より