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「「最近の米国VC事情」」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

日本のVC投資の先行きを考える際、やはり米国の状況は気になるところである。最近の米国VC及びVC投資の動向を簡単にみてみよう。

まず、年間投資額は、ITブームで2000年にピークをつけた後、2003年にはピークの6分の1まで落ち込んだ。その後徐々に回復、2007年には300億ドル強となったが、2008年のリーマンショックで急速に冷え込み、2009年は2007年比約60%まで落ち込んだ。
同様に、VCファンドへの出資約束額(commitments)も2007年以降減少、2009年には直近のピーク2007年比で半減した。

このようにファンドへの出資金が減少し、投資額も減った主たる原因は、VCファンドのパフォーマンスの悪化にあると思われる。一部の米国有力VCファンドのパフォーマンス悪化は既に日本でも報道されているが、全米全体のVCファンド設立年別出資額倍率((残存価値+分配額)/出資額)をみても、1999年設立ファンドあたりから倍率は大幅に低下、期限が残っているファンドがあるとはいえ、1倍を切る状況が続いている。

株価低迷と並んで、米国でのIPO(株式公開)企業数の歴史的減少がVCファンドパフォーマンス悪化の一因と考えられる。2002年のSOX法で上場会社の内部統制コストが大幅に上昇、IPOの冷え込みが続いている。VCが資金支援するベンチャーの最近のIPO企業数は、1990年代の年間200社前後から年間10社前後と極端に落ち込んでいる。米国では、IPOと同時にM&AがVC投資の資金回収手段として機能しているが、VC投資全体の回収機会及び回収資金額の減少をカバーできていないと思われる。

このように米国のVC投資の現状は全体としてみる限り芳しくない。こうした状況に対しては、VC資金量の過剰が問題視され、ファンドサイズの縮小や投資額の削減といったダウンサイジングの必要性が叫ばれるなど、かなり悲観的な見方も出てきている。

とはいえ、2010年に入ってからのVC投資額は、半年でみて前年比50%近い増加となっている。この状況が持続するかどうかまだ予断は許さないが、注目される。

米国VC投資の産業別投資比率をみると、2005年以降クリーンテックへの投資比率がそれまでの5%以下から10%を超える水準に上昇し、新しい投資対象分野となりつつある。

また、個別のVCの動向をみると、大手VCでは、アーリーステージへの古典的なVC投資に加えて、フェイスブック、ツイッターといったSNSやナノソーラなどのクリーンテックへの1件100億円を超える大型投資や、それまでの米国内のリージョナルな投資に代わって、中国など海外へのグローバルな投資が拡大している。

過去、米国のVC投資は、新しい技術革新に伴う新しい成長分野の出現とともに発展してきた。現状も、SNSやクリーンテックといった新しい成長分野が登場してきている。加えて、グローバル投資という新しいフロンティアの開拓も進みつつある。米国でのこのような新しい動きが果たして成果を生むかどうか、その確認までにはしばらく時間がかかろうが、翻って日本のVC投資においても、何らかの新しいフロンティアの開拓が望まれる。

※「THE INDEPENDENTS」2010年9月号 - p16より