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「「米ネット系企業が日本の同業ベンチャーを買収へ<br> ソーシャルゲームやクーポン共同購入など買われる為の会社設立も」」

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米ネット系企業が日本の同業を買収する動きが相次いでいる。ソーシャルゲームやクーポン共同購入など急成長する分野で顕著だ。陣取り合戦が終わる前に日本市場を抑えたい米ネット企業の思惑と、IPOが見込みづらい中、早めにイグジットしたいベンチャー経営者や株主であるベンチャーキャピタルなどの投資家の思惑が一致した格好だと言える。オーナーシップに過度にこだわらない若手創業者の経営者としての気質も透けて見える。

米ソーシャルゲーム大手、ジンガゲームネットワーク(カリフォルニア州)が、日本のソーシャルゲーム大手のウノウ(東京・渋谷、山田進太郎社長)を買収すると、一部の新聞で報じられた8月5日、ツイッターをはじめとしたソーシャルメディアでは、ベンチャー経営者らが雄叫びにも似た喜びの声をあげていた。「ウェブ関連の日本のベンチャー企業が評価された証しだ」「日本にとってうれしい出来事」「自分も続きます」などの発言が相次いだ。ジンガによるウノウ買収自体は、業界では数カ月前から噂になっていたため、驚きを持って迎えられることはなかった。それだけに、一歩踏み込んだ反応となったようだ。

ジンガと、先ごろ同社に出資したソフトバンクグループが共同で設立するジンガジャパンがウノウを買収する予定。ウノウの山田社長は、事業を統合した後のジンガジャパンの社長に就任するのではないかとも取りざたされている。社長でなくとも開発担当などとして経営の中枢を担うのはほぼ確実というのがソーシャルゲーム業界関係者の一致した見方だ。

ウノウと山田社長は、確かに、そうした処遇にふさわしい成果を上げてきた。ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)をプラットフォームとして、その上でゲームなどのアプリケーションを提供するソーシャル・アプリケーション・プロバイダー(SAP)は、国内SNS大手のミクシィがプラットフォームを開放した昨年半ばから、一気に参入が活発になった。ウノウはSAPの先駆けの1社として、「まちつく!」、「バンドやろうよ!」、「海賊クロニクル」などのゲームを主としてモバイルで提供し、人気を得てきた。収支は明らかにしていないが、mixi版の「まちつく!」は会員が300万人を超えるという。

ウノウが買収対象として選ばれたのには、こうしたSAPとしての優位性以外にも、経営者と株主のマインドが挙げられよう。ウノウはこれまで、映画情報サイト「映画生活」をぴあに、モバイル向け行動ターゲティング広告サービスの「NeoAd」をGMOアドパートナーズに売却するなど、企業の成長に合わせて、事業譲渡を何度も繰り返している。山田社長はかつて「事業を成長させてくれる買い手がいれば、いつでも譲渡するつもりで事業を開発している」と話していた。事業育成をビジネスとしていたともいえる。

株主も必ずしもIPO(株式新規公開)にこだわっていなかったことも、今回のディールの成功要因であろう。株主の一つだったクロノスファンドはかねて、アーリーステージのベンチャーに投資してきた。場合によっては、会社設立の前から経営者と議論と交渉を重ねた事例もあるという。イグジットは株式市場の状況に左右されるIPOにこだわらず、むしろ、きちんとした評価が得られるなら、早期回収も見込めるM&Aを重視する。

IPOが事実上凍結されたような現状の日本では、同様の考え方が広がっている。海外のネットベンチャーへの売却を想定して会社を作り上げるのである。8月18日、割引券などを期間限定で販売するクーポン共同購入サービス最大手の米グルーポンが、日本の同業者であるクーポッド(東京・渋谷)を傘下に収める方針であることが明らかになった。今後はグルーポンブランドで事業展開するとみられる。クーポッドはベンチャーキャピタルのインフィニティ・ベンチャーズLLPなどが出資して6月22日に設立したばかり。ネット業界では当初から、「売却狙いだね」とまことしやかに語られていた。ソーシャルゲームでも同様の狙いで設立されているベンチャーがある。IPOによる回収を最初からあまり考慮していないベンチャーキャピタルが主導している。

米ベンチャーが同業の日本ベンチャーを買う。買われないよりはましなれど、買われるために作るというのはいささか寂しい。そう思うのは無用なセンチメンタリズムだろうか。

※「THE INDEPENDENTS」2010年9月号より