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「「個人のベンチャー投資規制案、いったん延期も安心は禁物<br> 日証協は検討継続、未公開株詐欺の防止で当局は意欲消えず」」

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エンジェル投資家から投資を受けたベンチャー企業は上場できなくなる??。そんな事態につながりかねない日本証券業協会の規制導入議論は、370件にのぼる多くのパブリック・コメントでの抗議が実を結び、7月20日の導入はいったん延期となった。ただ、ここ数年増え続ける未公開株詐欺を防止するという目的があり、「白紙撤回ではない」(日証協の前哲夫会長)だけに、安心はできない。ベンチャー関係者は今後も議論の方向性を見守り、可能な限り関与を深めることが必要だろう。

日証協がホームページに、「新規公開前に行われる不適切な自己募集を規制するため
の『有価証券の引受け等に関する規則』等の一部改正について」を掲載し、パブリック・コメントの募集を開始した6月10日以来、ツイッターやメーリングリストなどネット上では「炎上」と言うべき大騒ぎが起こっていた。「日証協にパブリック・コメントを送ろう」、「ベンチャーつぶしのエンジェル投資規制をやめさせろ」などという趣旨の発言が相次いでいた。導入延期はある意味、ベンチャー関係者の“勝利”とも言える。

日本で証券取引所に上場するためには、日証協の会員である証券会社に主幹事証券会社になってもらう必要がある。改正案では、その会員証券会社に対して、未上場段階で経営陣や親族以外の個人から出資を受けた企業の引き受けをしないように定めている。結果として、手続き上、個人から出資を受けたベンチャーは上場できなくなるわけだ。しかも過去にさかのぼって適用されるように読める。

ベンチャー企業の創業期は自己資金が不足しがち。さりとて、ベンチャーキャピタルからある程度大きな金額を出資してもらうには早すぎる。そんなときに、知り合いや起業支援に熱心な個人投資家(エンジェル)は最適な投資家だ。スタートアップで個人から出資を受けるのは米国をはじめ世界標準の資本政策だと言える。

この改正案が出てきたそもそもの経緯を振り返ってみよう。ここ数年の未公開株投資を騙った詐欺事件の増加を受け、日証協のほか、金融庁や警察庁、消費者庁、独立行政法人国民生活センターなどは昨年来、「未公開株式の投資勧誘による被害防止対応連絡協議会」を組織して、対応策を検討してきた。今年1月に報告書が作成され、その方針に基づいて、日証協が打ち出したのが今回の規則改正なのである。国民生活センターなどが「上場できなくなるから、個人から出資を募ることはありませんよ」と説明できるようにするのが狙いだったという。ベンチャー企業の資本政策など経済や金融とは一切関係ない。

前・日証協会長は7月20日の定例会見でも、この問題に言及した。「未公開株詐欺は、振り込め詐欺の代わりとして未公開株式の勧誘が行われているということで、非常に悪質な勧誘行為である」として、何らかの対策を講じたい考えを重ねて強調した。「関係当局とも相談をしながら、何ができるかということを考えていきたい。ルール化しなくても抑止できるのであれば、一番よいと思う。どういう形でどのような方と議論をすればよいのかということを含めて検討している段階であり、拙速に結論を出すということではなく、本当に実のあるものにしていきたいと思っている」(前・会長)という。

できることならば、こうした議論の場に、ベンチャーキャピタルやエンジェル、ベンチャー経営者らの代表者も参加することが望ましい。前・会長の言葉にはそうした考えも含まれていると期待したい。昨年新規上場した19社のうち半数以上が上場できないというような規制案を軽々に許してはならない。

※「THE INDEPENDENTS」2010年8月号より