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「【号外】個人のベンチャー投資が事実上禁止!?<br> 7月20日施行予定の日証協の規則改正案に寄せられる驚きと怒り」」

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エンジェルのベンチャー投資が事実上禁止される!?ベンチャー関係者の間で今、こんなニュースが駆け巡っている。冷え込んだベンチャー投資をさらに氷漬けにするような一概には信じられない話ではある。一体何が起こっているのか。

筆者の元には6月中旬以来、複数のメーリングリストから、「日本証券業協会(日証協)にパブリック・コメントを送ろう」という呼びかけが届いている。ツイッターをはじめとしたネットでも、「ベンチャーつぶしのエンジェル投資規制をやめさせろ」などという趣旨の発言が相次ぎ、あるベンチャー関係者に言わせると「炎上」の様相を呈している。

発端は、日証協が6月10日、ホームページの「パブリック・コメントの募集について」コーナーに掲載した「新規公開前に行われる不適切な自己募集を規制するための『有価証券の引受け等に関する規則』等の一部改正について」。その中の「I.改正の趣旨」に、「未上場会社が上場前に個人投資家を対象に勧誘行為を行っていた場合には上場できないことを明らかにする」とあった。これを読んだベンチャー企業やベンチャーキャピタルの関係者の間で、危機感や驚き、狼狽、怒り、憤慨など、さまざまな感情と議論が沸き起こっているのである。

規則改正の条文を見てみよう。新設されるのはまず、「(新規公開時における株券の引受判断)第3条の2 引受会員は、上場発行者以外の発行者が新規公開前に自己の株券、新株予約権証券、新株予約権付社債券及び社債券について個人投資家に対して募集又は私募を行っていた場合には、細則に定めるときを除き、当該発行者が新規公開において行う株券の募集又は売出しの引受けを行ってはならない。」である。確かに、この条項を読むと、個人投資家から資金調達していると上場できないのではないかと受け取れる。しかも過去にさかのぼって適用されるように読める。

いやいや、これはおかしいと思いながら、読み進めると、適用除外を説明する細則の条項が出てくる。ここにエンジェル投資に関する言及があるのだろうか。「(新規公開時における引受禁止の適用除外)第2条 規則第3条の2に規定する細則で定めるときは、次に掲げるときとする。1 株券、新株予約権証券、新株予約権付社債券及び社債券の募集につき有価証券届出書を提出していたとき。 2  株券、新株予約権証券、新株予約権付社債券及び社債券を発行した時点において発行者が有価証券報告書を提出していたとき。 3 株券、新株予約権証券、新株予約権付社債券及び社債券について発行者の株主、役員及びその親族並びに従業員及びその親族に対してのみ募集又は私募を行っていたとき。 4 その他本協会が第1号から第3号に準ずると認めたとき。」とある。お分かりのように、エンジェルあるいはエンジェルを具体的に想起させる表現はここにもないのである。

ここ数年、未公開株投資を騙った詐欺事件が相次いでいる。そこで、日証協のほか、金融庁や警察庁、消費者庁、独立行政法人国民生活センターなどは昨年来、「未公開株式の投資勧誘による被害防止対応連絡協議会」を組織して、対応策を検討してきた。今年1月に報告書が作成され、その方針に基づいて、日証協が打ち出したのが今回の規則改正なのである。

日証協側では、「エンジェル投資を制限する意図はない。『4 その他本協会が第1号から第3号に準ずると認めたとき。』にエンジェルが含まれる」と考えているようだ。ただ、日証協側はパブリック・コメントをファクスやメールで受け付けるだけで、原則として質問は受け付けず、説明はない。明文化されていない限り、施行後の運用がどうなるのか、保証はない。ベンチャー関係者の不安は高まるばかりで、パブリック・コメントの締め切りである7月1日午後5時に向けて、ヒートアップしている。放っておけば、7月20日には施行される。残された時間はあまりない。

関連URL
「新規公開前に行われる不適切な自己募集を規制するための
『有価証券の引受け等に関する規則』等の一部改正について」
http://www.jsda.or.jp/html/oshirase/public/10061001.pdf

※「THE INDEPENDENTS」2010年月号より