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「新政権とIPO」

公開


元野村證券株式会社
公開引受部 出原 敏 氏

野村證券で長い間IPO業務に係わる。2008年定年退職し、現在は非常勤監査役及びIPOコンサルティング等の業務に従事。

昨年9月に民主党に政権が代わり、期待するところ大でした。しかし、鳩山前首相は「国民が、言うことに耳を傾けてくれなくなった」という名言?を残し、コーポレートガバナンスならぬガバメントガバナンスのないまま、8カ月余りで自らのオウンゴールで政権を投げ出してしまいました。実に不愉快なことです。

この間政策は迷走し、リーマンショックで疲弊していた産業界に対しては、前麻生政権の政策を踏襲したくらいで、産業界はさしたる支援も無い中、自助努力と新興国の景気回復に乗っかり、何とかリーマンショックを凌いできました。

菅新首相は、先の所信表明では強い経済、強い財政、強い社会保障の一体的立て直しを実現するとしています。しかし、強い経済については具体的な提案は無いままで、企業人にはがっかりの内容です。民主党政権の基本政策は、お金の再分配によって社会の不公平を解消しようとするものであるため、財政の裏付けが必然となりますが、今後紆余曲折が予想されるものの、選挙を前についに消費税への言及に至りました。ポリシーモデルに矛盾を内包したままでは、菅新政権もいずれ破綻を来たしかねません。

さて、今年1?3月期のGDPは前期比で5%(年率換算)増となり、景気は回復局面に向っています(昨年の同時期は最悪期でした)。しかし、ギリシャショックおよびこれに続く諸国あるいはハンガリーの経済破綻等が懸念され、ユーロ安などわが国の経済にとって極めて憂慮すべき事態が片方では進んでいます。このような危機の時代であるにもかかわらず、未だ有効な対応はなされておりません。新内閣は社会保障など内向な政策には熱心なようですが、外交・安全保障に加え経済・金融・産業あるいはグローバルといった政策についてはあえて忌避しているように感じられます。環境・医療、あるいは介護・福祉等の経済社会の課題解決を新たな雇用創出のきっかけとし、成長につなげるという第3の道についても、本来は政府が行政サービスとして行うものであり、経済対策とするのはいかがなものかと思います。

さて、6月までのIPO数は12社となりました。この間、昨年は9社、一昨年は24社で、結果的には年間IPO数のほぼ半分でしたから、この分では今年は取敢えず昨年を抜いて20社台を回復する可能性が出てきました。募集金額でも第一生命の約1兆円を除いても昨年を上回っており、景気の回復に合わせて、IPOについても回復の兆しを見せています。

しかし、最近、ベンチャー企業あるいはIPOについて、新聞等のメディアで以前のようには取り扱われなくなったことが懸念されます。創業あるいはVB育成などの言葉が民主党政権下では死語になりつつあるのではないかとさえ危惧しています。また、事業チャンスの拡大に有効な、制度の変更、規制の緩和なども十分には論じられません。日本に元気を取り戻すのはまず、市場に活気を戻すことが重要ですが、これについても極端に鈍感です。新成長戦略にはグリーンイノベーションとして環境・エネルギー対策等が盛込まれるようですが、やる気のある若者が報われる経済政策作りに是非配慮して欲しいと思います。

奇兵隊は戊辰戦争終結とともにお払い箱となり、利用された揚句哀れな末路を辿りますが、菅政権にはいつまでも破壊者の先兵に止まらず、今までの主張に囚われない、創造的で大局観に立った政策を推進する勇気を持ってもらいたいと思います。

※「THE INDEPENDENTS」2010年7月号 - p17より