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「「SBIR(中小企業技術革新制度)の意義」」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

米国のベンチャーの輩出・育成において、大きな貢献をしたと考えられる制度に、1982年に誕生したSBIR(Small Business Innovation Research=中小企業技術革新制度)がある。

この制度は、一定額以上の研究開発予算をもつ省庁(現状は11省庁)が、自身の研究開発予算の2.5%をベンチャーに振り向けることを義務付けている制度で、中小ベンチャーの技術力を活用すると同時に、ベンチャー創出・成長を促す制度になっている。
制度には3つの段階がある。

第1段階。各省庁は自身の省庁の研究開発計画の中で、ベンチャーに新しく開発してほしいテーマを公示する。ベンチャー企業はそのテーマ・リストを見た上で、開発可能と考えるテーマの開発に名乗りを上げ企画書を提出する。企画書を提出したベンチャーは厳格な審査を受ける。審査に合格したベンチャーには半年で上限10万ドルが与えられ、改めてフィージビリティ・スタディを行なってもらう。

半年たった段階でフィージビリティ・スタディの結果をチェックし、次のステップに進むベンチャーを選ぶ。第2段階に選ばれたベンチャーは、2年間75万ドルで試作品の開発を行なう。

2年間の第2段階が終了した時点で再度審査が行われ、第3段階に進むベンチャーが選ばれる。第3段階は補助金こそないが、その代わりに有力なVCファームを紹介してくれる。同時に、最終的に製品化できたら開発テーマを出した省庁がその製品を購入してくれることになっている。この段階まで来ると、公的資金が誘い水となって民間のリスクマネーが提供されるケースも出てくることになる。

このようにSBIRは、いわばベンチャーのスター誕生制度であり、有望なベンチャーのスクリーニング制度としての機能も有している。

資金調達や販売ルートの開拓に苦労するベンチャーにとっては、フィージビリティ・スタディの段階から資金の提供を受け、上手く評価されれば試作品開発に進めて、最後は政府がファースト・クライアントになってくれる。米国では、特にアムジェンやバイオジェンといったバイオ製薬企業の多くが、保健省の研究開発予算から提供されたSBIR制度を利用し大企業に成長している。

このSBIR制度に投じられた公的資金毎年約2,000億円の中では、国防省(DOD)や保健省(NHI)、NASAといった省庁の資金が大きな比重を占めている。

日本でも米国のこの制度を真似て、1999年に中小企業庁が制度を作ったが、強制力を持った各省横断的な制度になっていないことなどで、上手く機能していない。また、2007年にエネルギー庁が米国の制度に忠実にSBIR制度を創設し運用を始めた。この制度からはリチウム電池などの分野で一応の成果が出てきているようである。

改めて各省庁横断的な日本版SBIR制度の見直しを望みたい

※「THE INDEPENDENTS」2010年7月号 - p18より