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「「必要なリスクマネーの循環」」

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國學院大学
教授 秦 信行 氏

野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)

日本のVC投資は、昨年の第4四半期に若干持ち直した模様(JVCA 投資動向調査)だが、依然水準は低調に推移している。一昨年来のVC投資の落ち込みの最大の原因は、日本の新規株式公開(IPO)市場の冷え込みにあると思われる。周知のように、昨年の新規株式公開企業数は19社と約30年前、1980年代前半の水準となった。中でも新興市場へのIPOは13社と直近のピーク2006年の155社の12分の1に減少した(VEC調査)。日本版SOX法の影響、景気後退による業績不振での上場延期などに加えて、新興市場の株価低迷で投資家の新規公開株式への人気離散が大きく響いていると言えよう。

既にこのコラムで述べたように、日本のVC投資の出口、すなわち資金回収手段は、現状もっぱら株式公開=IPOにある。投資先ベンチャーの株式を上場公開し、流通市場で一般投資家に売却して現金化するわけである。したがって、株式公開企業数の減少は、VCファンドの流動化を遅らせ、出資者に投資収益をもたらさないだけでなく、現金還元を困難にすることになる。それは、新しいVCファンドの組成を困難にし(実際昨年の新規ファンド組成は大幅に減少した模様)、VC投資の減少に繋がる。このように、現状日本のVC投資の最大の問題は、資金循環が詰まっていることにあり、この解決が喫緊の課題といえよう。

課題解決策の一つは、株式公開市場が回復することであるが、短期的に日本の株式市場、とりわけ新興市場の回復には期待が持てそうにない。そうした中で、香港、シンガポール、韓国といったアジアの株式市場への上場は、今後VC投資資金回収手段の一つの選択肢になる可能性はあるように思う。

二つ目は、M&Aによる資金回収を拡大していくことである。この問題は、日本のVC業界が今後中長期的に検討し努力しなければならない大きな課題の一つといえるが、短期的な効果を期待するのは難しい。

資金循環の詰まりを短期的に手直しするために、現状は業績が悪くなりIPOが遠のいたものの、少し時間と手と金を掛ければIPOも可能となるようなVC投資先企業を、VCファンドから買い取るような仕組みを作るのはどうであろうか。セカンダリィ・ファンドと似ていなくもないが、セカンダリィよりは将来性を評価して高く買ってくれるような受け皿といったらいいのか。それは余りにVCに都合が良すぎると言われようが、早く資金循環の詰まりを手直ししないと日本のVC投資は壊滅しかねない。産業革新機構の役割は良く分からないが、機構が受け皿になることも検討に値するのではないか。

いずれにしても、日本のリスクマネー供給は量的にも小さく、流れも元々余り良くない。エンジェル、VC、株式市場、事業会社など多様なリスク・リターン特性を有したリスクマネー供給者が、バトンタッチしながらエクイティ資金を流していく資金循環の構造を逸早く構築する必要がある。

※「THE INDEPENDENTS」2010年4月号 - p18より