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「「ソフトバンク、動画配信のユーストリームを傘下に<br> VCとの蜜月関係が支える成長戦略」」

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ソフトバンクが1月末、リアルタイム動画配信を手掛ける米Ustream(ユーストリーム)に資本参加した。追加出資の権利も得ており、筆頭株主になることも可能という。現時点で月間5000万人以上の視聴があるといい、昨年末のiPhoneアプリの登場で増加ペースは勢いを増している。有力な成長ベンチャーだけに、単独で上場を目指すのか、どの企業が傘下に収めるのか、注目を集めていた。なぜ、ユーストリームをソフトバンクが勝ち取れたのか。背景には米大手ベンチャーキャピタル、DCMとの太いパイプがあった。

2月2日に開いたソフトバンクの2010年3月期第3四半期の決算説明会。孫正義社長は、自らの会見の様子をユーストリームで中継、「個人がテレビ局になれる」と傘下に収めた喜びを興奮気味に話していた。

この日の会見では、世界戦略の一環として、ソーシャルゲーム大手の米ロックユーとアジア事業会社ロックユー・アジアを合弁で設立していることや、中国最大のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の「レンレン(人人、旧シャオネイ)」を運営するオークパシフィックインタラクティブというインターネットビジネスのコングロマリットに投資していることも改めて説明していた。「成長する中国市場で勝てる布石は打っている」と強調した。

ソフトバンクが掌中に収めたこの3社に共通するのは、いずれも米ベンチャーキャピタルのDCMが投資し、支援していたベンチャーであるということだ。日本法人のないユーストリームの場合、かねて、DCMの日本代表が提携先などの開拓に奔走していた。

DCMは、1996年の創業。アーリーステージのIT系ベンチャーに投資するハンズオン型のベンチャーキャピタルだ。米レッドへリングのベンチャーキャピタルの2009年の世界ランキングではアクセル・パートナーズやセコイア・キャピタルなどに続き、6位に位置している。共同創業者のディクソン・ドール氏は2008?2009年の全米ベンチャーキャピタル協会の会長を務め、バラク・オバマ米大統領にベンチャー振興政策を提言していた。

すでに120社以上への投資実行と成功事例を積み重ねている。日本では日本通信やカブドットコム証券などのIPOの成果がある。最近では、拡張現実(AR)技術を生かした「セカイカメラ」サービスを手掛ける頓知・(東京・新宿)に億単位の投資を実行した。現在、最もアクティブに日本で活動している外資系ベンチャーキャピタルと言える。

DCMは、米国、中国、日本を「ゴールデントライアングル」として、投資戦略の基本に据えている。それぞれの国で投資するのはもちろんのこと、例えば、アメリカのテクノロジーオリエンテッドな次世代半導体や次世代サービスのベンチャーに投資し、中国の巨大市場を対象にしたビジネスを作り上げる。そして、事業会社と組み合わせる。グローバルにうまく活躍できる会社に投資するという点で、IT分野の経営哲学が共有できるソフトバンクはベストパートナーの一つとだと、DCMのパートナーは打ち明ける。案件を重ねるごとに、信頼感は増しているという。

IPOの窓がほとんど閉ざされている今、ベンチャー側にとってM&A戦略を取り結ぶ重要性は高まっている。一方、大企業にとっても、競争が激化する中、新たな成長の芽を社内だけでなく、社外に求めることは必要だ。ベンチャー企業とベンチャーキャピタル、大企業が対話を重ね、3者の成長につながる関係を構築しなければならない。

※「THE INDEPENDENTS」2010年3月号より