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「急成長企業の人材戦略」

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株式会社エイチーム
代表取締役社長 林 高生さん

昭和46年12月岐阜県生まれ。小学5年生からプログラミングを始める。高校、大学へは進学せず、アルバイトの日々を送る。16歳の頃に新聞配達。 19歳で学習塾を作り、23歳でプログラマーとして独立。平成9年6月 25歳でエイチーム創業。平成12年2月 有限会社エイチーム設立(現株式会社エイチーム)。

住所: 愛知県名古屋市西区牛島町6-1 名古屋ルーセントタワー32F
TEL: 052-527-3070 設立: 2000年2月29日  資本金: 5,545万円
http://www.a-tm.co.jp/

■ Biography
父親は有名な陶芸家でした。しかし突然他界。それからは生活環境が一変しました。小学3年生だった私は、大きくなったらお金持ちになって実家を楽にするぞ、それには社長になるしかない、と心に決めました。家計が苦しかったのもあり、結果的に高校へは進学せず、住み込みバイトをしながら大学検定に合格。結局、母親がはじめた商売が大変になって大学進学どころではなくなりましたが....

最初の起業は19歳の時。学習塾を経営しました。実家の借金を早く返すためには、大きな仕掛けが必要でした。塾の生徒は広告で集めました。すぐに儲かると思っていましたが、2年間は赤字で、自分が他所でアルバイトして稼いでは先生の給料に充てる有様です。ようやく食べられるようにはなりましたが、とても続けていく自信はなく、その事業は譲りました。

コンピュータ開発の仕事は、「Windows95」が出る1年前頃に友人と立ち上げました。実は小学生の頃からプログラム開発を行っていて、17歳の時には地元のソフトハウスでアルバイトをしていました。自分で仮説を立て、プログラムを実行して検証する、というプロセスが好きで自分の性にも合っています。

エイチームの創業は、それから2年後の25歳の時です。個人事業としてではなく、チームで開発するというイメージが明確にあったので、海外ドラマ番組を参考に「Ateam」という社名に決めました。


■ Business Model
受託開発の仕事は多いときもあれば、少ないときもありましたが、在庫管理や受発注システム開発で年商7000万円、社員10人でそこそこは食べていけました。しかし、自分を含め社員みんなに閉塞感がありました。なんとか労働集約型から自社商品開発型に方向転換したいと思いました。

KDDIがケータイコンテンツ提供者のオープン化に踏み切ると同時に、オリジナル商品を開発して市場参入しました。アキバ系の恋愛シミュレーションゲームです。自分にはこれはヒットするぞ、と読めていました。コンピュータおたく界隈では、美少女キャラをパソコンで描画する事が流行っていたので(笑)実際にあっという間に受託開発2か月分を売り上げました。現在の事業は、コンテンツ事業とインターネットメディア事業の2つの柱から成っています。

コンテンツ事業は、ケータイ公式サイト向けにゲームや着うた®などを提供する、ユーザー課金モデルです。当社の強みは圧倒的開発スピードによる、ニッチ市場No.1戦略です。「エターナルゾーン」はモバイルで初のMMORPG(多人数同時参加型ゲーム)としてリリースしました。現在400サイトを運営しています。

インターネットメディア事業は、引越し見積もりなど比較サイト運営による、広告収益モデルです。今後はコンテンツ事業で培ったエンターテイメント性を取り込みながら集客力を高めるとともに、営業力を強化して法人ニーズを汲み取っていきたいと考えています。

プラットフォームの多角化を図るため、モバゲータウンなどSNSアプリ向けにこの2ヶ月で25タイトル供給しました。ケータイコンテンツ業界も競争が激化しているからです。

北米市場には、任天堂「Wii」向けゲームを、カナダ人のプロデューサーにより海外テイストにアレンジして販売しています。

世界に向けたエンターテイメントコンテンツ事業と、生活に密着したサービス事業とをバランスさせた収益構造を築くのが目標です。


■ Management
モチベーションをあげるために、起業当時は「5本の指の法則」を使って目標管理をしていました。たとえば、売上目標500万円をそのまま追いかけるのではなく、5分割して100万円にして捉えればハードルも低くなります。現場では実際に私がやってみせ、社員に「自分でもできそうだな」と感じてもらうようにしていました。

現在は市場が求めていること、儲かるビジネスであることの2点を重視しています。できることをやるのではなく、目標から逆算し、自分で考えて実現することを徹底しています。

リスク分散の観点から、新規事業も1つに集中するのではなく、数を追います。はじめからどこで魚が獲れるかはわかりません。たくさん網を張って、魚がかかった網にリソースを集中投下します。

ローコストも徹底しています。1万人のサイトでも採算が取れるよう、一人からでも開発できる体制を求め、他社のライセンスに依存しないオリジナルコンテンツ作りにこだわっています。開発の裁量権限を与える一方、組織も小分けにして当事者意識と収支の責任も持たせます。

人材の採用には苦労しました。起業当時に誘った塾の生徒やマージャン仲間はすぐに辞めてしまいました。自分は教えるのは好きだったので、経験の浅い10名をフロムエーで募集して何とか戦力にしました。今でも当時の3名は残っています。

応募者の質も、ケータイコンテンツの開発を始めた2004年から上がりました。2006年からは急激に人を増やし、去年からは新卒も20名採用しました。一時的に一人当たりの売上高が下がりましたが、人材への投資に当社のすべてがかかっています。これからは教育研修制度の確立が大きな課題です。

ワンフロアのオフィスはパーテーションもなく、社員はお互いの顔が見える環境にあります。年齢は20代後半から30代前半が多く、公私共に仲良くやっているようです。命令されて働くのではなく、仲間のために働くという意識が強く、会社全体に一体感があります。今の自分の役割は、経営の大枠を決めること、経営方針を社員に浸透させること。決して自分がカリスマにならないよう心がけています。


■ Vision
好きな本、影響を受けた本は「仕事心にスイッチを」です。どうしたら社員のみんながエイチームで働きたい、と思うようになるか悩んでいた時期に読みました。その頃の会社の雰囲気は最悪で、自分自身でも仕事が楽しくありませんでした。「受託開発から脱却して売上10倍!」という目標も社員に受け入れられませんでした。追い討ちをかけるように社員の背任行為が発覚、もう二度と不幸な事件を起こしたくないという決意から「みんなで幸せになれる会社にする」という経営理念が出来ました。

経営理念はみんなが共感でき、共有できるものでなくてはなりません。漠然としたものはみんなが理解できるように咀嚼(そしゃく)しています。働く上での幸せとは、必要とされる存在になること、金銭的に不自由しないこと、そして幸せにしたい人を幸せにできることだと考えています。どうすればそれが達成されるかまで考えるため、理念に対し前向きに受け止めてくれていると思います。

IPO(株式公開)について意識はしていますが、資金面での必要性は感じていません。信頼性や知名度の向上からはプラスでしょうが、それがゴールではありません。株主もほとんどが役員と従業員です。

コツコツと努力し続けることが当社の基本姿勢です。ケータイ市場の波にたまたまうまく乗れたから急成長したように見えるかもしれませんが、良いことは長く続かないという恐怖感が常にあります。だからこそ、絶えず新しいことに挑戦し続ける必要があると感じています。社員が200人を超えても、一人ひとりが責任感と強い気概を持ち続けることでもう一段上のステージを目指していきます。

中学を出てから起業して、現在のエイチームの状態になるまでたくさんの苦労がありました。それが今後、起業する人たちの参考になれば嬉しいと思います。エイチームの若い社員達には、自分が将来この会社の社長をやってやるんだという意識をもって頑張ってほしいですね。


■ 4月17日@名古屋 事業計画発表企業募集中
インデペンデンツクラブは、全国の「個性あふれる起業家」を発掘し、「1人でも多くの方と一緒に、1社でも多くの公開会社を育てる」を理念とするベンチャーコミュニティです。私どもが運営する事業計画発表会は、質疑応答を重視し、ベンチャー支援関係者による専門的アドバイスはもちろん、資金調達や事業提携の機会を得る事ができます。

事業計画発表を希望される方、またはご推薦頂ける方は、下記リンク先よりお問合せ下さい。
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※全文は「THE INDEPENDENTS」2010年4月号 - p4-7にてご覧いただけます