■ 安全性・効率性・精度を実現する非接触振動センシング

 当社は、広島大学の研究成果をもとに設立された大学発スタートアップです。当社開発の最大の特徴は、設備にセンサーを取り付けることなく、カメラ映像から微細な振動を読み取る非接触センシング技術にあります。高速カメラが捉えたわずかな揺れをAIが解析することで、これまで目視では捉えられなかった異常の兆候を可視化でき、危険な場所へ作業者が立ち入る必要もありません。さらに、複数カメラのデータを統合して設備の動きを三次元的に再現するデジタルツイン機能により、専門知識がなくても直感的に状態を把握できます。“貼らない振動計測”は、安全性・効率性・精度のすべてを底上げする、新しい点検様式を生み出しています。

SYNRAのバリュープロポジション

 

■ “遠くから、全部わかる”という価値

 当社の技術が真価を発揮するのは、製造ライン、プラント設備、橋梁や配管などの社会インフラといった、点検が難しく、停止コストが高い現場です。人手不足や老朽化が進む中、世界の予知保全市場は2030年に約9兆円規模へ拡大が見込まれ、現場では「安全に」「短時間で」「広範囲を」「高精度に」診断できる手法が求められています。非接触で広域を一度に計測できる技術は、まさにその課題に応えるもので、作業者が危険区域に入る必要がなく、ライン停止も最小限で済みます。映像を基軸にしたデータ取得は属人化を防ぎ、保全判断の品質を安定化させます。今後5年間で、映像から自動で異常傾向を検知し、保全計画まで導くSaaS型診断サービスへの進化を構想しており、将来的には座標情報と連動した“自律型保全”のプラットフォーム構築も視野に入れています。“遠くから、全部わかる”という価値を軸に、現場の働き方そのものを変えていきます。SYNRAビジネスモデル

 

■ 研究を社会へ届ける、島﨑氏の挑戦

 代表取締役の島﨑氏は、広島大学准教授として高速映像解析と振動センシングの研究に長年携わり、その成果を社会へ実装するためにSYNRAを創業しました。技術と現場課題を橋渡しする姿勢が高く評価され、同社はILS TOP100 STARTUPSに2年連続選出され、ひろしまユニコーン10にも採択されています。研究者としての専門性と、起業家としての推進力を併せ持つ島崎の挑戦が、日本の保全の在り方をアップデートし、世界へ広がる新しい基盤技術の創出へとつながっています。

 


 
コメンテーターより
弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 多良 翔理 氏
 

 SYNRA株式会社は、広島大学発の知的財産を基盤に、非接触で微細な振動を可視化するエッジAI振動イメージング技術を開発している注目企業です。光学センサーとAI解析を融合した独自技術は、製造・インフラ・宇宙分野など幅広い領域での応用が期待されます。今後は、大学との特許ライセンスを通じて知的基盤を強化し、企業との共同研究を重ねながら社会実装を進めていくことが期待されます。高い技術力と知財戦略の両立に注目したい企業です。

弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 多良 翔理 氏

 
 
※「The INDEPENDENTS」2025年12月号 - P.13 掲載
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