<株式上場を果たして>
東京インデペンデンツ(2025年10月6日)にて上場表彰を行い、特別対談として中村氏にご登壇いただきました。
上場表彰:(左から)株式会社アクセルスペースホールディングス 中村 友哉 氏、インデペンデンツクラブ 代表理事 松本 直人 氏
特別対談:(左から)株式会社アクセルスペースホールディングス 中村 友哉 氏、インデペンデンツクラブ 副代表理事 國本 行彦 氏
■ 上場達成と17年の歩み
國本:8月のグロース市場上場、おめでとうございます。創業から17年、ついに一つの節目ですね。
中村:ありがとうございます。ようやくここまで来られました。創業した2008年当時は、宇宙ビジネスなんて成り立たないと言われた時代で、ベンチャーキャピタルからの資金調達はほぼ不可能、前例のないビジネスで、顕在化しているニーズのないところに飛び込むのは本当に大変でした。
転機はウェザーニューズの石橋博良会長(当時・故人)との出会いでした。「我々は気象革命を起こす。君たちは宇宙革命を起こせ」と背中を押され、民間初の商用超小型衛星「WNISAT-1」を開発しました。これがアクセルスペース誕生の原点です。
■ 学生時代の感動が起業の原点
國本:創業の原点は、大学での研究だったとか。
中村:はい。学生時代に「CubeSat」という手のひらサイズの衛星を打ち上げるプロジェクトをしていました。2003年に世界で初めて成功し、1kgの衛星が宇宙を飛んだ瞬間の感動が忘れられませんでした。研究で終わらせず、社会実装まで手がけたい——その想いが起業のきっかけです。
当時は“宇宙”がまだ遠い存在で、夢やロマンの象徴でした。それをもっと身近にし、日常に役立つものに変えたいという思いで「Space within Your Reach 〜宇宙を普通の場所に〜」というビジョンを掲げています。
■ 資金調達の壁と突破口
國本:黎明期の資金調達は相当苦労されたそうですね。
中村:そうですね。2010年代前半はITやゲーム系が中心で、「宇宙」は敬遠されていました。2015年、シリーズAで約19億円を調達しましたが、これは当時のハードウェアベンチャーとしては異例の規模 でた。独立系ベンチャーキャピタルのグローバル・ブレインに加え、スカパーJSAT、三井物産など事業会社が中心で、累計ではシリーズDまでで140億円超を調達しました。
クラウドやAI技術が発展し、衛星データを活用できる環境が整ってきたことも追い風になりました。
國本:上場はかなり慎重にタイミングを見極めたそうですね。
中村:はい。宇宙ベンチャーは赤字上場が多い中、私たちは黒字化への道筋を明確にすることを重視しました。
顧客の宇宙ミッション実現のための衛星開発・運用事業「アクセルライナー」と、自社の光学衛星コンステレーションによる地球観測データ提供事業「アクセルグローブ」。この二本柱を確立した段階で上場に踏み切りました。
■ 量産体制と柔軟な宇宙利用の実現
國本:AxelGlobe(アクセルグローブ)は光学衛星ですね。最近注目されるSAR衛星との違いは何でしょうか?
中村:私たちの衛星は光学式です。カメラのように地表を撮影するため「見たままの地球」を届けられるのが特徴です。構造がシンプルで低コスト、量産にも向いています。一方で、雲がかかっている場所や夜間には撮影できないという制約もあります。
SAR衛星は電波を使うので天候や昼夜を問わず観測できますが、装置が大型で高価、解析も難しい。光学衛星は民間利用に適しており、農業の生育管理やインフラ監視など、多様な用途に展開しやすい点が強みです。政府向けだけでなく、民間や新興国市場にも広く使われる“現実的な宇宙技術”だと思います。
國本:衛星の量産化にも力を入れていますね。
中村:これまでの“一品生産”型では需要に追いつきません。設計の標準化とパートナー企業との協業で、スケーラブルな量産体制を構築しています。専用工場を持たず、需要の変動に柔軟に対応できるのが特徴です。
さらに、打ち上げや運用もソフトウェアで統合管理できる「AxelLiner Terminal」を開発中です。宇宙をより多くの人が使えるようにする——これが私たちの目指す方向です。
國本:最近はサステナビリティへの取り組みも注目されています。
中村:衛星を打ち上げ続けるだけでは、やがて宇宙ゴミが増え、活動が困難になります。そこで、寿命を迎えた衛星を早期に軌道離脱させる仕組みを採用するなど、衛星の全ライフサイクルで環境に配慮した当社の独自のガイドライン「Green Spacecraft Standard」を策定しました。地球にも宇宙にも優しいものづくりを目指しています。
國本:最後に、この17年を振り返って感じることをお聞かせください。
中村:山あり谷ありでした。創業期は夢だけで走り、資金難や技術的課題に何度も直面しました。それでも続けられたのは、学生時代に感じた“宇宙をもっと身近に”という情熱があったからです。
夢は形を変えながらも、いま確実に現実へと近づいています。上場は通過点にすぎません。これからも、宇宙を「普通の場所」にする挑戦を続けていきます。
【株式会社アクセルスペースホールディングス】
設 立:2020年3月2日
所在地:東京都中央区日本橋本町3-3-3 Clipニホンバシビル
資本金:連結4,067百万円(2025年9月10日現在)
事業内容:小型衛星のワンストップサービス「AxelLiner」、地球観測プラットフォーム「AxelGlobe」の提供。
小型衛星と関連コンポーネントの設計・製造、打ち上げのアレンジメント、
打ち上げ後の軌道上における運用支援、衛星ソリューションの提供までをトータルに手掛ける。
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【代表者略歴】 2007年、東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。
在学中、世界初の大学生手作り超小型衛星「CubeSat(キューブサット)」を含む3機の超小型衛星の開発に携わる。 卒業後、同専攻での特任研究員を経て2008年にアクセルスペースを設立、代表取締役に就任。 2015年より内閣府宇宙政策委員会部会委員を歴任。 2022年、第22回Japan Venture Awardsにて最高賞である経済産業大臣賞を受賞。 2025年、「日本スタートアップ大賞2025」において、文部科学大臣賞(大学発スタートアップ賞)を受賞。 |
