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「最近のIPOに思う」

公開


元野村證券株式会社
公開引受部 出原 敏 氏

野村證券で長い間IPO業務に係わる。2008年定年退職し、現在は非常勤監査役及びIPOコンサルティング等の業務に従事。

昨年のIPO数は残念ながら19社に止まりました。これは1980年の14社以来の低水準となりました。もっとも、1983年以前は新興市場(当時は店頭市場のみ)が存在しなかったため、在来市場のみの比較では6社となり1960年代後半以来の、低水準なものとなってしまいました。寂しい限りです。

業種では医薬品・バイオ関連が最も多く6社、IT関連が3社、その他9社となっています。医薬品・バイオ関連とIT関連にはいわゆるベンチャー企業が多く、全体に少ない中にも、ベンチャー系企業の健闘が光ります。

今年の低調さの直接的な理由は何といっても昨年のリーマンショックに始まる不況です。

業績悪化のため多くの企業は長年の準備にもかかわらず、IPOを断念せざるを得なくなりました。また、株式市場の低迷により調達資金が少なくなってしまいました。IPOの最大のメリットが失われてしまっています。不況のため人材の募集も昔程の苦労を必要としなくなっており、この面でもIPOのメリットは減退してきています。一日も早く経済を復活させ、結果的にIPOの回復を期待するところです。

さて、今年は政権交代があり、その景気回復策が多いに期待されますが、3か月たってもなかなかその兆しが感じられないのは残念です。

この政権はどうも市場、投資、企業、経営等といった言葉には関心を持ちたくないようで、経済対策が後手に回ることを恐れています。特に、創業、アントレプレナー、VB等への理解が足らないように感じてなりません。これらの単語を目にすることが余りないのです。

IPO数の減少にはその他に、構造的なものもあるように思います。長い間IPO数を支えてきた中堅優良企業といわれる企業のIPOが減ってきています。地方を含め多くの中堅優良企業といわれた企業のIPO化が進んだ一方、グローバル化・技術革新への対応遅れ、事業承継難、新興市場創設による早期IPO等により、ふと見渡すとそういった企業のIPO予備群が減ってきています。また、経営手法の変化によって、一時は非常に盛んに行われたグループ企業IPOがほとんど見られなくなってしまいました。さらに、1998年のビッグバンにより規制が大幅に緩和され、その一環として新興市場も創設されたわけですが、最近はむしろ過剰緩和であったとさえ言われ、再び規制強化に向かいつつあります。このため、上場会社の負担は重くなり、この面からも上場のメリットは低下して来ています。関係者は投資家の信頼を損なわない範囲で、いかにIPO企業の負担を軽減するか等、IPOの魅力回復へ真剣に考える時期に来ています。

中堅優良企業のIPOに多くの期待ができないとすれば、今後のIPOは一体どうなるのでしょうか。海外企業―現実的には難しい、民営化案件―数に限りがあるうえに現政権下ではこれ以上の増加は期待できない、投資ファンド案件―IPO以外の回収方法を考慮等難しい状況にあります。わが国の証券市場のためには、もうVBに頑張ってもらうしかないと思います。とにかく、IPO復活のためにも現政権には早く経済音痴を返上し、地に着いた対策を講じてほしいものです。

※「THE INDEPENDENTS」2010年1月号 - p17より