イノベーション・エンジン株式会社
代表取締役 / インベストメントパートナー
佐野 睦典 氏 Sano Mutsunori

野村総研では米国株式アナリストとなり、上場間もないApple、Microsoft、Walmartなどを担当。その後、日本ベンチャー企業調査の責任者となり、野村グループの司令塔として1990 年頃のIPO ブームの盛り上がりに貢献。1995 年からは、JAFCO において投資調査部長を経て、産学連携ファンドの責任者となり、日本初のディープテックファンドを設立・運営。2001 年にイノベーション・エンジンを設立。産業創出型技術系ベンチャーファンドを組成し多くの革新企業をIPO に導いている。
ナノテクビジネス推進協議会 ビジネス委員会 委員長
横浜経営者倶楽部 理事
京都大学法学部卒、Harvard Business School PMD 修了
 

インデペンデンツクラブ 松本 直人

 

 

インデペンデンツクラブ
代表理事
松本 直人 氏 Matsumoto Naoto

1980年3月23日生
大阪府立三国丘高校出身。神戸大学経済学部卒業
2002年フューチャーベンチャーキャピタル㈱入社
2016年1月同社代表取締役社長に就任
2022年7月㈱ABAKAM 設立、代表取締役就任(現任)
2023年3月㈱Kips 取締役就任
2024年9月インデペンデンツクラブ代表理事就任


「グローバル・スケールテック・カンパニーへの投資戦略」

■ 日米の産業ニューフロンティアを見てきた50年

松本:佐野さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
佐野:私は野村證券に1974年に入社し、1977年から野村総合研究所で米国株式のアナリストとして、AppleやMicrosoftを含めた情報産業、ヘルスケア、流通業など、当時は誰もカバーしていない“その他分野”を新人だった私がすべて担当しました。結果的には“その他分野”のみが米国で大きく成長して当時の主力産業であった鉄鋼や化学産業などは衰退してしまいました。その後、日本の成長産業調査の責任者となり、1995年からはJAFCOに転籍し投資調査部長を経て、日本初の産学連携ファンドを設立、今でいうディープテック分野に携わる事になりました。

松本:2001年にイノベーション・エンジン社を設立、当時は珍しい独立系ファンドを運営されました。
佐野:既に情報革命やバイオ革命が人気になっており、これからは先端技術革命が来ると考え、ナノテクを主ターゲットとした先端技術系ベンチャーファンドを組成しました。その後現在までに23のファンド等累計510億円を運用しています。

 

■ 日本のグロース市場の成長と衰退

松本:日本のIPO市場は2000年203社と好調でしたが、2008年リーマンショックで激減、2013年頃まで厳しい時代が続きました。
佐野:当社も当時の投資パフォーマンスは株式市場の影響も受け期待を下回りました。特に、リーマンショックと2011年の東北大震災で多くのVCが撤退する中、弊社は逆に2011年以降から積極的に投資を行いました。その後の10年間に行った投資42社に対して、IPOなどの値上り実績は23社と55%の成功を実現できました。特に、ターゲットファンドによって投資した新電力事業のイーレックス社(現在、東証PRM)では大きなキャピタルゲインを得る事に成功しました。

松本:現在、IPO社数は年間100社ほどに回復しましたが、株価が低迷するIPO企業が増えています。
佐野:コロナの前後から、日本のベンチャー企業の成長力不足が懸念され、グロース市場全体ではピークアウトしたと感じています。主に日本国内をターゲットにしたIPO企業が多く、時価総額が100億円を超えるのは厳しくなっていくと思います。

 

■ グローバルスケールするスタートアップへの投資戦略

松本:現在の投資対象を教えてください。
佐野:リアルと情報通信の掛け算である「リアルDX革命」というテーマで、日本が世界で戦える宇宙、省エネルギー、ロボット、半導体、量子などの分野への投資に注力していきます。ここ数年はテーマ性のある数社に集中投資する20~30億円規模のマルチターゲットファンドを相次いで設立しました。例えば、宇宙ではispace社やアストロスケールホールディングス社などへ投資も行いました。また、米国AI半導体や世界的先端材料ベンチャーに投資するマルチターゲットファンド「AI&グリーン革命ファンド」も設立しました。

松本:情報革命の次に来る「リアルDX革命」の時代は日本が世界に勝てるとの事ですが。
佐野:情報革命の時代は言語の壁や韓中台の台頭で日本は競争上不利な状況でした。しかし日本にはリアル技術で圧倒的な強みがあります。その象徴がラピタスに代表される半導体分野です。当社はラピタスと提携する米AI半導体スタートアップTenstorrent社へも投資を行い、日本の技術力のグローバル展開にも貢献したいと考えています。

 

■ グローバル戦略で切り拓くスタートアップの未来

松本:最近の国内のスタートアップやVCに対してのお考えを聞かせてください。
佐野:日本のグロース市場が低迷する中でそこへの上場をゴールに考えるのでなく、最初からグローバルマーケットを狙いスケールの大きいゴールを目指してほしいと思います。VCに関しても、グローバルのマーケットサイズを意識した投資スタイルに取り組むべきだと考えます。

松本:最後にインデペンデンツクラブに対する期待をお聞かせください。
佐野:日本全国の活性化の意味でローカルな視点は必要ですが、地方企業においてもグローバル意識を持って欲しいですね。海外展開の橋渡しをしたり、海外企業の日本展開を支援したりするなど、グローバルスタンダードの視点で活動されることを期待しています。

interviewed by kips 2025.2.19


※「THE INDEPENDENTS」2025年3月号 P.12より
※ 冊子掲載時点での情報です