「AI関連発明の権利行使時の留意点 (2)」
1 はじめに
今回のコラムは、以下の具体的な設例を用い、AI関連発明の権利行使時の留意点について、述べていきます。
2 設例
(以下で規定される特許発明にかかる権利行使について、どのような点に留意すればよいでしょうか。)(※1)
【請求項1】 運転者監視装置を備える自動運転車両であって、 |
3 権利行使で留意すべき点
特許権侵害が成立するには、対象製品が、請求項に記載された各構成の全てを充足することを、権利者が立証する必要があります。以下では、権利者X社がY社に対し権利行使する場合に、各構成を立証する際の留意点を検討します。
⑴ 「運転者監視装置を備える自動運転車両であって、」
この構成を立証するには、対象製品である自動車運転車両に運転者監視機能が備えられていることを示すことが考えられます。
この構成を立証するには、対象製品である自動車運転車両に運転者監視機能が備えられていることを示すことが考えられます。
⑵ 「前記運転者監視装置は、車両の運転席に着いた運転者を撮影可能に配置された撮影装置から撮影画像を取得する画像取得部と、」
この構成を立証するには、対象製品の車両に運転者を撮影するカメラが設置されていることを示すことが考えられます。
この構成を立証するには、対象製品の車両に運転者を撮影するカメラが設置されていることを示すことが考えられます。
⑶ 「前記運転者の運転に対する即応性の程度を推定するための機械学習を行った学習済みの学習モデルに前記撮影画像を入力することで、前記運転者の運転に対する即応性の程度を示す即応性スコアを当該学習モデルから取得する即応性推定部と、を備え、」
対象製品が機械学習を行った学習済みの学習モデルを用いていることの立証は問題となりえます。対象製品のソースコードを入手することが難しく、ソフトウェアがどのようなアルゴリズムで動作しているか外部から知ることが困難だからです。
対象製品が機械学習を行った学習済みの学習モデルを用いていることの立証は問題となりえます。対象製品のソースコードを入手することが難しく、ソフトウェアがどのようなアルゴリズムで動作しているか外部から知ることが困難だからです。
① 対象製品に対する入出力関係を示すことで、対象製品が機械学習を行った学習済みモデルを用いていることを立証することが考えられます(先月号のコラム参照)。本件では、対象製品に対し、複数の状態の撮影画像を入力し、対象製品が出力する即応性スコアの挙動を立証することが考えられます。
② 学習済みの学習モデルを用いている点(AIを用いている点)は、特徴的な機能ゆえ、Y社が、ウェブ、パンフレット、広告宣伝で、この点をアピールしている可能性もあります。そのような場合、ウェブ等の資料により、対象製品が機械学習を行った学習済みモデルを用いていることを立証することが考えられます。
⑷ 「取得した即応性スコアが所定の条件を満たさない場合に、自動的に運転操作を行う自動運転モードから運転者の手動により運転操作を行う手動運転モードへの切り替えを禁止する自動運転車両。」
この構成は、機械学習とは無関係の構成であり、対象製品の挙動を示すことが考えられます。すなわち、この構成を立証するには、対象製品が、「即応性スコア」が所定の条件を満たさない場合に、「自動運転モード」から「手動運転モード」への切り替えが、不可となる挙動を示すことが考えられます。
<注釈>
(※1) 本文中枠内は、「AI関連技術に関する事例について」(2019年・特許庁)12頁から引用、図表は「AI関連技術に関する事例の追加について」(2019年1月30日・特許庁審査第一部調整課審査)19頁から引用。
以上
※「THE INDEPENDENTS」2024年12月号 P.15より
※掲載時点での情報です
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弁護士法人 内田・鮫島法律事務所 弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏 2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。 【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】 所在地:東京都港区虎ノ門2-10-1 虎ノ門ツインビルディング東館16階 TEL:03-5561-8550(代表) 構成人員:弁護士34名・スタッフ16名 取扱法律分野:知財・技術を中心とする法律事務(契約・訴訟)/破産申立、企業再生などの企業法務/瑕疵担保責任、製造物責任、会社法、労務など、製造業に生起する一般法律業務 http://www.uslf.jp/ |