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「AI関連発明の特許出願時の留意点 (9)」

1 はじめに

 本コラムでは、設例に基づき、AI関連発明の特許出願時の留意点を検討します。
 

2 設例(※1)(以下の特許出願は、特許となるでしょうか。)

 スタートアップA社は、特定の商品について、広告活動データとその言及データから、今後の売上数の予測値を推定し、在庫量と売上数の予測値に基づいて今後の生産量を含む生産計画を提示する、事業計画支援装置を発明しました。
 A社は、請求項1に記載の発明をし、以下の出願書類において、特許出願をしました。

(1) 特許明細書等の出願書類

 【発明の名称】 事業計画支援装置 


【特許請求の範囲】
【請求項1】 
 特定の商品の在庫量を記憶する手段と、
 前記特定の商品のウェブ上での広告活動データ及び言及データを受け付ける手段と、
 過去に販売された類似商品に関するウェブ上での広告活動データ及び言及データと、前記類似商品の売上数とを教師データとして機械学習された予測モデルを用いて、前記特定の商品の広告活動データ及び言及データから予測される今後の前記特定の商品の売上数をシミュレーションして出力する手段と、
 前記記憶された在庫量及び前記出力された売上数に基づいて、前記特定の商品の今後の生産量を含む生産計画を策定する手段と、
 前記出力された売上数と、前記策定した生産計画を出力する手段と、
 を備える事業計画支援装置。

【発明の詳細な説明】
 インターネットの普及により、ウェブ上での広告活動は、商品の売上促進のための有効な手段となっている。しかしながら、実際の広告活動が有効であるか否かは、リアルタイムの判断が難しく、試行錯誤を繰り返す中で、在庫量不足等により、商機を逸する恐れが少なからずあった。本発明の目的は、特定の商品について、広告活動データとその言及データから、今後の売上数の予測値を推定し、在庫量と売上数の予測値に基づいて今後の生産量を含む生産計画を提示する、事業計画支援装置を提供することにある。これにより、特定の商品の販売者は、商品の生産計画の見直しを早期に行うことができる。
 まず、事業計画支援装置は、特定の商品の在庫量を記憶する。続いて、商品についてのウェブ上での広告活動データ及び言及データを入力として、商品の売上数を出力する予測モデルを用いて、当該商品の予測される売上数を取得する。ここで、前記広告活動データとしては、特定の商品についてのウェブ上での広告露出回数を用いる。広告の例としては、バナー広告、リスティング広告、メール広告等が挙げられる。前記言及データの例としては、ウェブ上の記事やSNS、ブログ等での当該商品や広告についての評価が挙げられる。当該商品や広告についての評価として、好意的な評価が多いと高い値、否定的な評価が多いと低い値となる評価値を用いる。当該評価値は、ウェブ上の記事やSNS、ブログ等のテキストに公知のコンピュータ処理を行うことで取得可能である。前記予測モデルは、ニューラルネットワークなど公知の機械学習アルゴリズムを利用して、過去に販売された類似商品に関する広告活動データ及び言及データと、該類似商品の実績売上数の関係を教師データとして学習させる教師あり機械学習により生成する。
 その後、記憶した在庫量と予測される売上数を比較し、前記売上数が前記在庫量を上回れば前記商品の生産量を増やす生産計画を、前記売上数が前記在庫量を下回れば当該商品の生産量を減らす生産計画を策定する。
 このように学習された予測モデルを用いて商品の売上数をシミュレーションして、当該売上数と在庫量とを比較し、商品を増産すべきか減産すべきかを一見して把握できるようにユーザに提示する。

(2) 技術常識(引用発明、周知技術等)
前提
 出願時の技術常識に鑑みてウェブ上での広告活動データ及び言及データと売上数との間に相関関係等の一定の関係(以下、本事例においては「相関関係等」という。)が存在することが、推認できるものとする。

(3) 特許出願の帰趨 (※2) 

 上記内容を出願した場合、特許される可能性があります。
 上記内容を出願した場合、実施可能要件 (※3)(特許法36条4項1号)が問題となります。AIを用いて有用な相関関係を予測できた場合(本件であれば、ウェブ上での広告活動データ及び言及データと売上数)、特許明細書においては、具体的な相関関係を記載するか、同相関関係が出願当時の技術常識からして推認できるものでなければ、実施可能要件を具備しないとして拒絶されますが、本件では、出願時の技術常識からして相関関係等の存在が推認できるので、実施可能要件を具備し、特許される可能性があります。

3 本事例から学ぶ留意点
 
 上記事例では、技術常識の存在により、特許される可能性があるものとなりましたが、技術常識の立証は難しい場合もあるので、AIを用いて有用な相関関係を予測できた場合、この具体的な相関関係については(本件であれば、ウェブ上での広告活動データ及び言及データと売上数)、特許明細書において記載することが好ましいことに留意すべきです。
 

<注釈>

(※1) 本コラムで紹介するのは、「AI関連技術に関する事例について」(2019年・特許庁)の事例47です。本文中枠内は、「AI関連技術に関する事例について」(2019年・特許庁)10~11頁から引用、図表は「AI関連技術に関する事例の追加について」(2019年1月30日・特許庁審査第一部調整課審査基準室)17頁から引用。

(※2) 特許出願の帰趨の詳細は、「AI関連技術に関する事例について」(2019年・特許庁)10~11頁参照。
 
(※3) 実施可能要件とは、発明の詳細の説明の記載が、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分な記載であることが必要であることをいいます。
 
 
以上
 
※「THE INDEPENDENTS」2024年7月号 P.9より
※掲載時点での情報です
 

 
  弁護士法人 内田・鮫島法律事務所 弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。

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