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「ベンチャー企業のイグジット戦略」

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京都監査法人
アドバイザリー部門 統括パートナー 高田 佳和さん

1998年中央監査法人京都事務所入所。2002年プライスウォーターハウスクーパース上海事務所派遣。2005年同事務所より帰任。現在まで京都監査法人パートナー、Team3(アドバイザリーグループ)リーダー。 プライスウォーターハウスクーパース上海事務所では日系企業のアドバイザリー業務(連結経営、決算早期化、M&A等)を行う。 現在はグローバル企業のビジネスのアドバイザリー業務を行っている。

京都オフィス:京都市下京区四条通烏丸東入ル 京都三井ビル7F
東京オフィス:東京都港区浜松町2-4-1 世界貿易センタービル 5F
関与会社数:181社(会社法・金融商品取引法監査37社  会社法監査61社 その他83社)
http://www.kyotoaudit.or.jp/

私が統括パートナーを務めるアドバイザリー部門は、監査業界では珍しくIPOとM&Aの両方を同じ部門で手がけています。これは、経営者の傍に立ちながら、企業の成長過程で様々なアドバイスをしていくという思想からです。本日は、IPO市場が低迷する中で、経営戦略の代替として関心が高まっているM&Aについて、基本的な考え方や注意すべき事項についてお話していきたいと思います。

(1)買収側は何を買いたいのか
経営資源はヒト・モノ・カネの3つに分けられますが、ベンチャー企業にはモノ・カネが不足していることは自明です。したがって、買収側は経営者(ヒト)やそこに内在するノウハウに価値を見出しています。ベンチャー企業の価値の源泉は経営者であり、その魅力をどう高めていくかがM&Aにおいて重要です。また、M&Aに係る手続きや経営統合には相当の労力がかかるため、単純に企業価値が割安だから買収するということはまずありません。

(2)買収側は何%の持分が欲しいのか
15%以上保有する場合は、買収企業の損益を自社P/Lに組み込まなくてはなりません。その上で、(1)支配権(2)企業価値(3)創業者の処遇の3点が買収側の意思決定のポイントになります。(1)については、競合企業からの囲い込みや将来的な脅威を防ぐために、50%超を取得して傘下にするケースが考えられます。(2)は買収側のM&A予算によって、株価や持分の調整が必要になります。(3)については、創業者の株式を一部残したり、経営目標に対するインセンティブ設計などにより、経営者のモチベーションを高める方法があります。

(3)買収側は、いつ、誰に支払いたいのか
ベンチャー企業の場合、多くは創業者が株式のほぼ全てを保有しています。創業者から買収側への株式譲渡がなされても、企業にはキャッシュインがありません。創業者は自身に、買収側は企業に、それぞれ資金を入れたいと思うと交渉は平行線を辿ってしまいます。そのため、創業者の株式の一部を買い取り、一方で第三者割当増資を行い会社に資金を入れ買収側の持株比率を上げることが一般的です。

―お互いの期待値を確認する
経営者(創業者)が今後どういう経営をしていきたいのか、買収側は何を経営者に期待しているか、お互いの目的や期待値をしっかり理解し、ゴールを一致させておくことが重要です。基本観の相違があるにも関らずM&Aが実行され、不信感のあるまま事業を進めていくのは不幸な事です。納得いくまでコミュニケーションを図って意思決定をしていただきたいと思います。

―[質疑応答]イグジットとして、海外上場を検討しているのだが
目まぐるしい発展を遂げているアジアマーケットにおいて、成長率10%では成長企業と見られません。日本国内でしか事業展開していない企業は、海外上場する理由に訴求力を持てないでしょう。最低でも成長率50%の事業ストーリーを描き、「アジアの商圏をどう戦っていくか」という明快なビジョンをお持ちであれば、海外市場の投資家にも受け入れられるとおもいます。

【講演レポート】尖閣後の中国ビジネスの変化(京都監査法人 山下 大輔さん)

※全文は「THE INDEPENDENTS」2013年1月号 - p14にてご覧いただけます