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「公立はこだて未来大学のAIとスタートアップ」

 <イベントレポート>

2023年9月22日 北海道インデペンデンツクラブ
@ 札幌証券取引所 2F大会議室
+ Zoom ウェビナー配信

 

■特別セッション

「公立はこだて未来大学のAIとスタートアップ」
鈴木 恵二 氏(公立はこだて未来大学 理事長・学長)

[大学紹介]

公立はこだて未来大学はシステム情報科学部の単科大学です。全国各地から学部生約1000名、院生約200名が集まっています。システム情報科学部では『自然や社会など、あらゆる分野に現れる「システム」を、「情報」という普遍的な要素から捉えることで、システムを「科学」的に理解するとともに、その設計に生かす』ことを目標にしています。

 

■システム情報科学部での学び

システム情報科学部には2つの学科があります。1つ目の情報アーキテクチャ学科では主にITやIoT について学びます。ただプログラミングを学ぶのではなく、企業の講師の方からシステムとして品質を学ぶことができるコースもあります。2つ目の複雑知能系学科では主にAIやデータサイエンスについて学びます。過去の卒業論文では、筋電義手をもっと使いやすくもっと普及させるための研究や愛されるロボットの動きを猫の動画から考察する研究などが行われています。

■学生主体となるプロジェクト学習の取り組み

本学にはコース混合で行うプロジェクト学習があります。ここでは各教員が設定したテーマに対して学生から参加を募り、テーマに沿って問題提起から問題解決までのプロセスを体験することができます。様々な分野の教員がサポートしており、ここでのユニークな研究から学生スタートアップが出てくることを期待しています。

[取り組み紹介]

本学では重点領域としてマリンIT、スマートアクセスビークルシステム(SAVS)、メディカルITの3領域があります。また、スポーツAIや小説家AIなどAI関連の研究にも多く取り組んでいます。今回はこの3分野の研究・取り組みに加え、過去に行ったAIでパドックから競馬予想するユニークな研究について紹介します。

■マリンITによるiFISHプロジェクト

マリンITの研究では漁業者と連携して持続的で高付加価値な漁業を目指しています。iFISHプロジェクトは定置網の中の魚を自動判別するプロジェクトです。一流の漁師でも難しい定置網にかかっている魚が何かを当てたいということからデータの分析をしました。定置網に魚群探知機を設置して魚群のデータと何が取れたかのデータを解析し、クラスタリングやランダムフォレストを行った結果、正解率85%を達成しました。


■SAVSによる大学発ベンチャー 株式会社未来シェア

SAVSとはタクシーと路線バスを掛け合わせた好きな時間に行きたい場所まで安価に移動することを可能にしたサービスです。未来シェアではAIを用いたスマホで予約する乗合配車システムを研究しています。SAVSを導入することで異なる予約に応じてリアルタイムにルートを最適化し、空きがない乗車を実現させます。現在試験運行でのアンケート結果から500円程度なら日常的な利用につながることが予測されていますが、コストとして800円かかってしまうので実現のための一工夫を検討しています。


■メディカルIT

地域の病院との医工連携・デザイン連携によるサポーティブAI/IoT 等の実証研究を行っています。具体的にはリハビリ補助ロボットの活用や、遠隔手術ナビなどがあります。遠隔手術ナビではAIを用いて、脳外科手術において手術時に変形する脳の形を予測したり、心臓手術において術前と術後で変形する心臓の大きさを予測したりすることで、外科手術に貢献しています。


■AIによるパドックからの競馬予想

学部生発案の研究で、パドックの馬の様子を見て競馬予想する人がいるが本当なのかということがきっかけでした。現在では数値データが非常に発展しておりそこから予想することは多いのですが、パドック画像からのデータ予測は初の試みでした。解析の結果、レース経験の少ない馬に対してはある程度の精度で予測することができ、今後家畜の状態を予測することに応用させていきたいと考えています。


■スタートアップへの取り組みや現状の課題

今はまだ学生スタートアップが少ないのですが、アントレプレナーシップ教育には力を入れています。卒業生の起業家や地域の起業家を招いてどうやって起業したのか、どうして起業したのかなどを学ぶ授業を設けています。また、プロジェクト学習でプロジェクトを作って他の人と協力して問題解決していくことを学んでいただいています。加えて、意欲のある学生も多く、毎年一人か二人は起業をしたいと考えている学生がいます。しかし、問題として資金調達が難しい現状があります。アイデアを始動させるための資金を大学から援助したいと考えているのですが、公立大学への法整備が追いついていません。一方で、他の事業会社などとの連携は活発であり、共同研究も多く行われています。

 

※「THE INDEPENDENTS」2023年11月号 P.4より
※ 冊子掲載時点での情報です