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「記述的商標について商標法3条2項が適用され登録となった事例」

知財高裁令和3年2月25日判決

 

1 事案

 
 原告は、特許庁に対し、「被服」等を指定商品として、「空調服」との名称について、商標登録出願をしましたが、出願段階では拒絶査定、審判段階でも拒絶審決となりました。
 すなわち、特許庁は、審決において、「本願商標の構成中、「空調」の語は「空気調節の略」の意味を、「服」の語は「身につけるもの」の意味を有するいずれも平易な語であることから、「空調服」の構成文字全体からは、「空気を調節する服」(空調機能を備えた服)程の意味合いを容易に認識させるものであ」り、その他事情を勘案しても、「その商品の品質を表示するものとして認識されるというのが相当であり、自他商品の識別標識としては機能し得ないものというべきである」として、商標法3条1項3号に該当して、登録できないと判断しました。
これに対し、原告は、特許庁の審決に不服があるとして、審決取消訴訟を提訴しました。
 
 
 

2 知財高裁の判断


 知財地裁も特許庁の判断と同様に、「空調服」の語は、商標法3条1項3号に該当すると判断しました。
 しかし、商標法3条2項について、以下のとおり判断して、特許庁の審決を取り消す判断をしました。
「原告商品「空調服」は、原告ら代表者の発案により原告セフト研究所が開発したもので、原告空調服が「空調服」の販売を本格的に開始した平成17年当時、「空調服」のほかにEFウェアは存在せず、「空調服」は、極めて独自性の強いものであった。」・・(略)・・「「空調服」という語の構成も、強い独自性を有していた」。
 この認定に加え、知財高裁は、市場占有率、新聞・雑誌への掲載、テレビ放映、「空調服」との用語の使用態様などを勘案して、「したがって、本件審決時である令和2年4月30日の時点において、本願商標「空調服」は、使用をされた結果、本願指定商品の需要者、取引者が、原告各社の業務に係る商品であることを認識することができるものであるから、商標法 3条2項に該当するというべきである。」と判断しました。
 以上のとおり、本件判決により審決が取り消され、その後、特許庁にて、「空調服」との名称は、登録されました。


3 本裁判例から学ぶこと


(1) 記述的商標の登録性
本件のように、商品の品質等を記述する商標は、記述的商標と呼ばれ、原則、商標法3条1項3号により登録を受けることができません。これに対し、本件のように出願にかかる商標が指定商品との関係で全国的な周知性を獲得していれば、商標法3条2項の適用を受け、登録を受けることができます。
 
(2) 問題の所在
 記述的商標は、需要者からすると、商品の内容が理解しやすい名称ゆえ、サービス名や商品名に採用されることも少なくありません。他方、上述したように、記述的商標は、原則、商標登録されないので、問題となるケースが散見されます。

(3) 事業開始時の留意点
 商標権を取得しない商品名・サービス名は、先行する商標権が存在する場合には、使用差止を受けますし、かつ、第三者に同一・類似の名称の使用を許容してしまいます。したがって、事業開始時に、必ず、先行商標の調査に加え、記述的商標(商標法3条1項3号)に該当するかの検討すること留意すべきです。
 事業が拡大してからの名称変更は、信用を蓄積したブランド価値が低下するリスクがありますし、名称変更に要するコストも無視できないからです。特に、記述的商標(商標法3条1項3号)に該当するかの判断は、先行例の知見も必要であり、専門家に判断を仰ぐことをお勧めします。
 
(4) 記述的商標を出願する際の留意点
 記述的商標は、原則として、商標法3条1項3号により登録できません。したがって、これを登録するためには、①他の用語・ロゴとの組み合わせにより登録に持ち込むか、②本件のように全国周知(商標法3条2項)を主張するなど、登録をするには工夫を要します。
 
(5) 記述的商標が登録された場合の留意点
 記述的商標は、普通名称化しやすく、事後的に無効とされるリスクがあるので、記述的商標が登録された場合、一般名称化を防ぐべく活動する必要があります。


以上

 
※「THE INDEPENDENTS」2023年10月号 P.11より
※掲載時点での情報です
 

 
  弁護士法人 内田・鮫島法律事務所 弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】
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