株式会社トライエッティング　代表取締役社長・CEO兼CRO　長江 祐樹 氏
　×　弁護士法人内田・鮫島法律事務所　弁護士 鮫島 正洋 氏

鮫島：貴社は認識・未来予測・最適化を主とした「知能作業」を自動化する名古屋大学発AIベンチャーです。

長江：当社が提供する「UMWELT」は、専門的な知識がなくても、さまざまな数量を予測でき、日常業務で使用するExcelデータと連携することによりCSVをAI化し、業務を効率化できるノーコード予測AIです。いわゆるAI技術の導入課題である「導入コスト・開発期間の長大化、専門人材の不足」の解決を目的とし、製造業、飲食業、旅行業、物流業、不動産など、業種業態を問わず様々なお客様にご利用いただいております。

鮫島：指摘の課題のように、AI技術の導入はデータを入力してみるまで不透明な点があるため、結果として工数が想定以上にかかり、期待したROIが出ない事例も少なくありません。「UMWELT」は完全定額制であることが大きな価値ですね。

長江：コストベースで予算を積み上げると、AI導入の現場は誰も報われません。明朗会計であることはお客様から見てリスクヘッジという価値を提供しているとも言えます。また、月額60万円と安価でも同等以上の成果を実現できるのは、独自のAI計算基盤を有しているからです。戦略として広く使ってもらうことを重視し、1つの事例創出が次の顧客獲得を生み、広告費も希薄化できています。特定の領域において市場シェアを一定水準超えるまでは、この方針を貫きます。

鮫島：需要予測や在庫適正化など、サービスレイヤーで競合先も存在しますが、価格面だけでなく品質面で差別化要因はありますか。AI予測は、その精度を評価する標準がないため、説明が難しいように思います。

長江：AIの分析結果はお客様がお持ちのデータに依存するため、精度（品質）の良さを示すのは一般論として難しいです。評価をする標準がない分、方法論を確立してお客様と伴走しながらPDCAを回していくしかありません。例を挙げると、お客様の実績データを「UMWELT」に学習させ、出力された予測データの中から”的中しなかった”ものをすくい上げ、AIとは別にルールベースで処理するよう設計しています。業種も規模も様々な事例に対応してきた、このキャリブレーション作業の蓄積が我々の強みです。人間が予測したデータとその実績をお持ちのお客様には、それをAI予測の精度と照らし合わせて評価することもあります。

鮫島：特許というよりも技術力やビジネスノウハウという広義の知的財産が、貴社のAIベンチャーとしての優位性だと理解しました。弊所でもご支援している先が複数社ありますが、名古屋大学発ベンチャーはとんがった技術を持った企業が多く、中でも長江さんは経営者として洗練されていると感じました。

長江：知財戦略としては、独占を目的としておらず、あくまで市場参入のため、防御のため、ということに重きを置いています。市場独占するためにはリサーチなどトータルコストが嵩み、投資採算性が現時点で低いと考えています。自動シフト作成AI「HRBEST」は競合先も多いため、UI特許の出願は視野に入れています。大学が保有する知財の活用という点ではこれから検討したいと考えていたところなので、またディスカッションさせていただければ幸いです。本日はありがとうございました。