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「富山発スタートアップの活性化に向けて」

 <イベントレポート>

2023年7月28日 北陸インデペンデンツクラブ
@ 富山県民会館
+ Zoom ウェビナー配信

 
■パネリスト
山室 芳剛 氏(富山県 理事・知事政策局次長)
大森 清人 氏(富山大学 学術研究・産学連携本部 副本部長・教授)
田中 裕仁 氏(ほくほくキャピタル(株) 主査/(株)北陸銀行 スタートアップ支援チーム 主査)

<モデレータ>
松本 直人 氏(株式会社ABAKAM 代表取締役/株式会社Kips 取締役)

 

 
以下のテーマについてディスカッションを行っていただいた内容をお届けします。

「富山発スタートアップの活性化に向けて」 

山室:富山県では、2022年2月に「富山県成長戦略」を策定し、「幸せ人口1000万~ウェルビーイング先進地域、富山~」を打ち出しています。戦略の6つの柱には「スタートアップ支援戦略」が組み込まれており、その中心となるのが成長企業の発掘・支援に向けたスタートアップエコシステム形成プロジェクト「T-Startup」です。オーダーメイド型のハンズオン支援プログラム「T-Startup Leaders Program」では、昨年度6社のスタートアップを選定し、市場戦略・知財戦略・組織戦略・資本政策等に強みを持つ「メンタリングパートナー」や、サービス・プロダクト開発、実証実験、マーケットテスト等を加速させる「クリエイティブパートナー」を迎えて集中的なサポートを実施しました。また、昨年10月には全国でも先駆的な職住一体の創業支援拠点「SCOP TOYAMA(富山市蓮町)」に整備し、起業家や移住者を呼び込み「ヒト・モノ・コト」が交流する場づくりも行っています。
 
 
松本:地域にスタートアップエコシステムを構築する上で、先輩経営者の存在が重要と考えますが、富山ではどのようなメンターがいるのでしょうか。
 
山室:レオス・キャピタルワークス(株)の藤野英人氏はじめ、富山県出身の東京で活躍されている先輩経営者が地元スタートアップ支援に協力してくれています。エコシステムとは、突き抜けた人がいて、それを追いかける人がいて、ぐるぐる循環していくことだとすると、富山県内では一サイクル目かもしれません。ファーストペンギンと言えるような起業家が出てくるかどうかが試金石になると思います。
富山県 山室氏(右)、ABAKAM 松本氏(左)

 

大森:富山大学 学術研究・産学連携本部では、大学で生まれた研究成果や知的財産の社会還元をミッションに、民間企業等へ共同研究や委託研究のプロモートや、大学発スタートアップの創出支援を行っています。本学には800-900名の研究員が在籍し、アルミなど軽金属や医薬品の分野をはじめ、カーボンニュートラルに貢献する触媒技術など、世界的に見ても進んだ研究が様々あります。富山大学発スタートアップは現在9社存在しますが、今後その質・量ともに上げていくべく、各種取り組みを実施していく方針です。
 
松本:世界で勝てるディープテックスタートアップの輩出や地域スタートアップエコシステムの中核として、大学に対する期待は年々高まってきています。
 
大森:本学でも学外有識者を組織して「富⼭⼤学Startup Ecosystem」創出に向けた取り組みを開始しています。これまで運営してきたビジネスプランコンテストも大幅に改革し、入賞者への賞金をGAPファンドのように活用しながら、ハンズオンで創業に向けた支援を行っています。何より、大学発に限りませんが、スタートアップを促していくときに大事なのは身近な成功事例をつくることです。大学としてファンドの構想も持っていますが、まずは環境整備と成功事例の創出を通じた機運醸成かと考えています。
 
 
田中:北陸銀行では、投資子会社であるほくほくキャピタルと共に、昨年10月に株式公開を目指せる企業を支援するベンチャーファンドとして「ほくほくイノベーション共創1号投資事業有限責任組合」を設立しました。北陸・北海道における次代の中核企業となりうる企業はもちろんのこと、ほくほくフィナンシャルグループとの事業シナジーや我々の取引先の事業成長に資する事業やテクノロジーを有する企業を対象としています。ファンド設立から10ヶ月経ち、(株)ModelingX(本社:富山県)はじめ6件の投資を実行済みです。
富山大学 大森氏(右)、ほくほくキャピタル 田中氏(左)
 
 
松本:地域に根ざしたベンチャーキャピタルの存在がスタートアップエコシステム構築には不可欠ですが、反響はいかがですか。
 
田中:私自身は東京を拠点にしていますが、首都圏のスタートアップから富山県の魅力を語っていただく機会が想像以上に多く、この地域の可能性について外から発見し直している日々です。これを踏まえて、今後より富山県内での投資に力を入れていきたいという思いは強くあります。エコシステムを担ういちプレイヤーとして、ただの投資ではなく、投資を通じてつながっていくことを個人的には意識しています。また、地域のスタートアップに対する理解が得られていけば、連携や地域資源の活用を求めて県外からスタートアップが流入し、またその動きを見て若い方々が起業することで、我々の投資機会も生まれてくると考えています。
 
 
松本:首都圏との関わり方を見直すことで、富山ならではのスタートアップ創出の可能性も見えてきます。
 
山室:東京で富山に所縁のある方に起業して関わってもらうという点では、神戸大学の熊野正樹氏に「とやまスタートアッププログラムin東京」を監修いただき、起業家育成プログラムを提供いただいています。また、東京は特にエンジニアの採用競争が過熱していますが、富山で有望な人材を確保して拠点を分けるような取り組みも現実的だと思います。
 
 
松本:現代において保守という考え方が変わってきていると感じます。今は挑戦することが最もリスクが小さく安全で、そうしなければ自分の価値をつくれない時代です。地域のスタートアップエコシステムにおいても、こういったマインドセットが浸透することが必要ではないでしょうか。最後に、起業家にむけて一言お願いいたします。
 
山室:富山県としては「T-Startup」を通じて大成功する起業家を、出すぎた杭を生み出すことに本気で取り組んでいます。また、突き抜けたことをやり遂げるには、それを支えるサポーターも重要です。それぞれ、我こそはという方はぜひ門を叩いていただきたいと思います。
 
大森:起業について考えるということは、スタートアップに限らず、全ての方にとって重要なスキルです。富山県内でスタートアップが増えることは結果として素晴らしいことですが、大学は教育の場でもあり、起業について学ぶ機会を学生や地域の方に提供できればと思っています。
 
田中:ファンド設立間もない新米キャピタリストではありますが、富山だけでなく日本経済を今後牽引するのはスタートアップであり、そのエコシステムづくりを県内外の方々と連携しながら、富山発スタートアップの活性化に向けて尽力していきたいと思います。
  
 
※「THE INDEPENDENTS」2023年9月号 P.8- P.9より
※冊子掲載時点での情報です