アイキャッチ

「相手方の取引先に相手方の商品が特許権侵害をしている旨の通知書を送付した行為が違法と判断された事例」

東京地裁令和4年10月28日判決

 

1 事案

 
 被告ら(通知人)は、原告の取引先に対して、原告の製造販売する製品について、「通知人らが保有する本件特許権を侵害していると考えております。」などと、被告が保有する特許権を侵害している旨の通知書を送付した。これに対し、原告は、この通知書を送付した行為が、不正競争防止法2条1項21号にいう不正競争行為及び共同不法行為を構成すると主張して、被告らに対し、同行為の差止めと損害賠償の支払を求めました。
 

2 東京地裁の判断

 東京地裁は、まず、被告らが「虚偽の事実」を告知したかの点について、以下のとおり判断しました。
 「競争関係にある者が、裁判所が知的財産権侵害に係る判断を示す前に当該判断とは異なる法的な見解を事前に告知し又は流布する場合には、当該見解は、不正競争防止法2条1項21号にいう「虚偽の事実」に含まれるものと解するのが相当である。」として、本件通知書の送付は、「虚偽の事実」の告知に該当するとしました。
 続いて、違法性について、以下のとおり、判示しました。
 「上記認定事実によれば、本件通知書は、キャタピラン+等については、裁判所によって本件特許権を侵害する旨の判断が未だされていないにもかかわらず、キャタピラン等について裁判所によって本件特許権を侵害する旨の判断が確定した経緯を詳述した上、キャタピラン+等についても、キャタピラン等と同様に、本件特許権を侵害する趣旨を述べて、販売の即時停止及び損害賠償額の算定に関する資料の開示を求めるものであることが認められる。」
 「現に、前記認定事実によれば、本件告知行為は、原告の取引先のうち、キャタピラン等の売上げが多く、通知人においてある程度の損害賠償額になると予想した10社に対し行われたところ、このうち4社は、本件告知行為によって、キャタピラン+等の取扱いを停止していることが認められる」
 「これら事情を総合して、本件告知行為の実態を詳細にみると、本件告知行為は、裁判所によって本件特許権を侵害する旨の判断が確定したキャタピラン等の存在を奇貨として、本件特許権を侵害しないように改良されたキャタピラン+等についても、裁判所による判断がされる前に、本件特許権を侵害する趣旨を告知し、原告の取引先に対する信用を毀損することによってキャタピラン+等を早期に「結ばない靴紐」の市場から排斥し、競業する事業者間の競争において優位に立つことを目的としてされたものであることが認められ、その態様は、悪質であるといわざるを得ない。したがって、本件告知行為は、本件特許権の正当な権利行使の一環としてなされたものであると認めることはできず、違法性を欠くものということはできない。」


3 本裁判例から学ぶこと

 知的財産権侵害の疑いがある行為を発見した場合、相手方に通知書を送付するケースがあります。このようなケースで、漫然と通知書を送付した場合、同通知行為自体が違法とされることがあります。
 本裁判例でも、相手方が製造販売する製品について、取引先に対し、「通知人らが保有する本件特許権を侵害していると考えております。」との通知書を送った行為が違法と判断されています。
 違法と判断されるか否かのポイントは、本件のように、実際に知的財産侵害があったか否か、誰に通知書を送ったか(相手方本人か、取引先か)、告知の内容・態様(行為を確認する内容か、即時の事業停止を要求する内容か)、告知の目的(市場から排斥し、競争優位に立とうとする目的か否か)などを考慮して総合的に判断されます。
 したがって、知的財産侵害の疑いのある行為を発見した場合の相手方に対して、どのように対処するかは、慎重に検討をし、適切な対応となるよう留意する必要があるでしょう。
 

以上
 

※「THE INDEPENDENTS」2023年8月号 P.11より
※掲載時点での情報です
 

 
  弁護士法人 内田・鮫島法律事務所 弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】
所在地:東京都港区虎ノ門2-10-1 虎ノ門ツインビルディング東館16階
TEL:03-5561-8550(代表)
構成人員:弁護士25名・スタッフ13名
取扱法律分野:知財・技術を中心とする法律事務(契約・訴訟)/破産申立、企業再生などの企業法務/瑕疵担保責任、製造物責任、会社法、労務など、製造業に生起する一般法律業務
http://www.uslf.jp/