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「中空型マイクロニードルで美容・医療分野に革命を」

<起業家インタビュー>

― 2022年度「インデペンデンツクラブ大賞」グランプリの受賞おめでとうございます。貴社は2017年10月の第286回事業計画発表会(於:東京21cクラブ)に初めて登壇されて以降、2019年3月に地元石川県での第350回事業計画発表会(於:ITビジネスプラザ武蔵)でも登壇いただき、今年3月の第525回事業計画発表会(於:エムキューブ)が3回目でした。

宮地:2017年は針の直径を100μm以下にする技術目標を達成した時期で、シリーズBの資金調達を始めるタイミングだったと記憶しています。インデペンデンツクラブから推薦してもらった「スタートアップビジネスプランコンテストいしかわ(主催:石川県・公益財団法人石川県産業創出支援機構)」でも2018年度に最優秀起業家賞をいただくことができ、故郷の企業との連携にもつながりました。今回のグランプリ受賞は、我々のこれまでの取組みを知ってくれている方々が、その変化の度合いを評価してくださったことが要因だったのかなと振り返っています。

 

― 光学や電気信号処理をコア技術とする検査測定器開発を創業事業とし、2016年よりNEDOのSTS事業採択を契機として医療用の微小中空型マイクロニードル開発を本格的に始動しました。

宮地:注射針に痛みと恐怖を感じる子供達や嚥下機能が低下した高齢者の方々にも安心/安全に使って頂ける経皮投薬方法として、マイクロニードルの可能性に着目し、実用化に取り組んでいます。従来の貼付剤や外用剤では経皮吸収できる薬剤が極めて限定的で、一方で経口薬においても吸収の過程で消化管や肝臓などの臓器を経ることで血中の薬品濃度が低下してしまうという課題があります。マイクロニードルはこれら双方の課題をクリアし、適量の薬剤を安定的に血中へ届ける新たな投薬方法として期待が集まっています。

 

― 競合も増える中、貴社のマイクロニードル技術の優位性を教えてください。

宮地:マイクロニードルは針先端から裏面を貫く穴(貫通孔)のある「中空型」と貫通孔のない「中実型」に分けられ、「中実型」は更に薬剤の塗布方法により、ソリッド型、コート型、溶解型に分類されます。当社が開発する「中空型」のマイクロニードルは、通常の注射針のように皮膚に刺入後、シリンジやポンプを用いて薬液を皮膚内に送達するので、薬剤選択の自由度は非常に高く、また、より多くの(必要な量の)薬液を皮膚内に送達することが可能です。さらに、医療用途で求められる針の高さや外径、中空穴径、素材をすべてクリアできているのは現時点で当社だけであり、ここに基盤技術である光計測機器の開発で培われた光学技術が使われています。

<マイクロニードルの種類と皮膚穿刺前後の比較>


― 医療用途で培ってきた技術を元に、昨年より化粧品分野にも参入されています。

宮地:肌に悩みを抱える方からの声がターニングポイントでした。それまでは如何に早く患者に我々の技術を届けるかが最優先事項でしたが、医療用途での開発で到達した技術レベルで化粧品分野の製品化が早期に見込め、多くの人の助けになれると考えたからです。プロダクトアウトからマーケットインへの経営方針の転換点でもあったように思います。実際には決断から約1年程度で開発完了し、2022年4月に新エイジレスブランド「Seleia(セレイア)」として、ノック式ホローマイクロニードルを採用した部分用美容液「Moisture Luxe ST(モイスチャー リュクスST)」を発売開始しました。

<医療用ホローマイクロニードル技術から誕生した化粧品>

 

― 化粧品は貴社にとって未知の分野ですが、今後の事業戦略はどのようにお考えですか。

宮地:BtoCという観点でも当社として初めての取組みになりますが、従業員が高いモチベーションで臨んでくれています。自分たちの製品がダイレクトに個人の方へ届き、反応をもらえる喜びなのかもしれません。今後
は「様々な美容成分」を「肌の奥(角質層)まで」届けられるこの新たなデリバリーシステムを、他の美容・化粧品メーカーに提供するBtoBモデルを強化していきます。我々の強みは美容成分の開発にある訳ではなく、中空型マイクロニードルにあります。育毛や抗シミなど、新たな美容領域での商用化に向けてパートナー企業と準備を進めています。

 

― 特許取得20件超とリアルテック企業としての研究開発もさることながら、事業の芽をいち早く見出し巧みに経営の舵取りをされている印象を持ちます。宮地社長の経営観の背景を教えてください。

宮地:自分の判断に拘泥せずお客様の声を重視する、これに尽きると思います。その原体験は、25歳まで遡ります。大学卒業後に住友大阪セメント(株)でセラミックの研究者として従事していた私は、開発を担当した人工骨がきっかけで住友製薬(株)(現・住友ファーマ(株))にMRとして出向することになりました。慣れない営業職に腐っていた当時の自分に対し、上司だった方が「仕事の向き不向きは引退するまでわからない。君を評価するのは君ではなくお客様だ。」と激しく叱ってくれたのです。この言葉を今でも大切にしていて、事業を考える上でも足を使ってお客様のニーズを拾い集めるのが私のスタイルになっています。

 

― 医療分野での実用化も第4コーナーを回るあたりまで迫っています。今後の経営戦略について、最後にお聞かせいただけますか。

宮地:弊社の動物実験による検証結果によれば、中空型マイクロニードルを用いた皮内投与がワクチン等の投与に関して極めて有用な手段であることが明らかになりました。これは皮下投与(一般の注射針)と比較して、少ない抗原量および薬液量にもかかわらず、より早期にかつ同等の効果を発揮するというデータであり、副作用の軽減や患者の自宅での自己投与の実現を期待させるものです。医療用途(人用)の技術開発は最終局面にあり、製薬会社等とのライセンス契約も水面下で交渉中です。ワクチン以外においても、インスリンGLP1、抗がん剤、麻酔薬など、多くの領域で弊社技術を医療関係者や患者が待ってくれています。世界最高峰の技術が織りなす美容・医療革命の幕開けに向けて、事業に邁進していきます。


interviewed by kips 2023.6.15

 



【シンクランド株式会社】  (→イベント登壇情報
設 立 :2014年2月3日
所在地 :神奈川県川崎市川崎区日進町7-1 川崎日進町ビルディング9F
資本金 :145,000千円
役 員 :(代)宮地邦男、志賀代康、江良仁、山家創 (監)郭健、森三津夫
事業内容:光学・電気技術を用いた医療機器および検査測定機器等の製造および販売
従業員数:27名(2023年5月末時点)
 
 

 

 

【代表者略歴】

シンクランド株式会社
代表取締役
宮地 邦男 氏 Kunio Miyaji


生年月日:1964年2月10日
出身高校:石川県立小松高校
1986年金沢大学理学部卒業後、住友大阪セメント(株)入社。2001年 (株)アルネアラボラトリ入社、取締役就任。2005年 (株)アルネアラボラトリ代表取締役専務就任。2014年シンクランド(株)代表取締役社長就任(現任)。

 



※「THE INDEPENDENTS」2023年7月号 - p6-7より

シンクランド株式会社

住所
神奈川県川崎市川崎区日進町7-1川﨑日進町ビルディング9F
代表者
代表取締役 宮地邦男
設立
2014(平成26)年2月3日
資本金
145,000,000円(2023.3月現在)
従業員数
32名
事業内容
光学・電気技術を用いた医療機器および検査測定機器等の製造および販売
URL
https://think-lands.co.jp/