アイキャッチ

「ディープテック・スタートアップ支援について」

 <特別レポート>


2023年5月8日 インデペンデンツクラブ月例会
@ エムキューブ (新丸の内ビルディング 10F)
+ Zoom ウェビナー配信

以下のテーマについてディスカッションを行っていただいた内容をお届けします。

「ディープテック・スタートアップ支援について」 

■パネリスト

     
伊吹 信一郎 氏
(国立研究開発法人
新エネルギー・産業技術総合開発機構
イノベーション推進部
スタートアップグループ主査)
  田邉 聡 氏
(川崎市 経済労働局
イノベーション推進部長)

 

福田 伸生 氏
(バイオ・サイト・キャピタル
株式会社
専務取締役
インキュベーションビジネス部長)
  <モデレータ>
秦 信行
(特定非営利活動法人
インデペンデンツクラブ
代表理事
事業創造大学院大学 教授)

 

秦:まず、皆さんから自己紹介を兼ねて、活動状況について5~10分程度で簡単にお話し頂きたい。

田邉:川崎市のディープテック支援は1986年の(株)ケイエスピー(KSP)への出資で始まったと考える。KSPとのリエゾンを初めて担当した1997年当時は工業振興施策の一環だと認識していたが、その後1999年以降新川崎・創造のもり、かわさき新産業創造センターなどを整備し、更に2008年からは殿町・キングスカイフロントにおいてライフサイエンス系の研究開発拠点を整備、加えて2018年からはKawasaki Deep Tech Acceleratorプログラム等を通じてメンタリングなどソフト面の支援も行っている。個人的にはここに来て起業家の属性や質が変わってきたように感じる。

伊吹:政府の「スタートアップ育成5か年計画」策定に伴い2023年度にNEDOの施策も大きくリニューアルした。このうち、「ディープテック・スタートアップ支援事業」では、目的をユニコーン級のディープテック・スタートアップの創出に置き、1,000億円という大型の基金で中長期的支援を目指す。今後5年間、通年で公募を行い、年4回程度審査の機会を設ける。STS(シード期)、PCA(アーリー期)、DMP(量産期、NEDOとしては初めてのフェーズ)の3フェーズを設けており、最も合致するフェーズに応募してもらい研究開発支援を行う。加えて助成対象費用の1/3以上はVCやCVC、事業会社等が所定の期間内に出資することを要件とし、NEDOとVC等が協力して支援する。採択のポイントは事業計画の構築にあり、将来獲得可能な市場の大きさやその実現可能性等が重要になる。

福田:バイオ・サイト・キャピタルは2002年創業で、インキュベーション事業やレンタルラボ、VCファンドの運用(SBIとの共同GP)も行っている。事業は川崎・大阪・沖縄で展開しており、川崎ではインキュベーション施設「かわさき新産業創造センター」の運営を川崎市産業振興財団と一緒に行っている。入居企業はヘルスケア、ロボット・DX、環境分野などのスタートアップ約50社で、その成長を支援しているが、入居期限が5年なので期限後の行先に課題がある。幸い川崎市内ではJFEの工場跡地にそうしたスタートアップのための製品化・量産化に向けた拠点を創る計画が進んでおり期待している。

 

秦:日本のディープテック、特にバイオ、創薬は海外と比較すると遅れていると言わざるを得ないと思うのだがどうか。

福田:ディープテックは成長するまでお金と時間が掛かるためVC投資も難しい。そのため公的な支援が必要だとは思う。また、バイオ・創薬のスタートアップについては、IPO時のグローバルオファリングによる海外投資家からの調達が重要になっている。

秦:NEDOの今回の1,000億円の基金の使い道については業種の制約はないのか。

伊吹:原子力技術や創薬技術については除外するが、NEDOとしては鉱工業技術全般を対象としており、幅広く利用して欲しい。民間VCが投資しづらい宇宙や量子といった分野も対象となるところ、評価は難しいが、VC等とも歩調を合わせながら支援していきたい。

 

秦:日本の今後のディープテック領域の発展をどう考えるか、個々の分野はどうか。

田邉:あるセミナーで、創薬開発においては覇権主義的な国では高度の軍事技術は進んでいても良い薬が開発されておらず、その原因は自由な会話や発想が難しいからだと話していた方がいた。その点は、日本は未だ強みがあると考えられ、期待が持てるのではないか。とはいえ日本は個々の製品作りは上手いが、その開発製品を核にした社会課題の解決=社会システムの構築(プラットフォーム化)は上手くないように個人的には思う。

伊吹:我々は各社の事業戦略、勝てる戦略の構築を支援したい。つまり技術だけでなく優れた事業プラン作りへの支援が重要だと考えている。とはいえ、その成果が出るまでには時間が掛かる、一朝一夕には難しい。着実に起業家の輩出を増やしながらその中からゲームチェンジャーとなるようなスタートアップが出て来る環境整備を長い目で支援したい。

福田:私はスタートアップ支援者として約40年のキャリアがあるが、起業家にとって今がチャンスだと思う。テレワークの浸透や副業が認められるなど、コロナが一つのドライバーとなって働き方が大きく変わっているからだ。多くのVCもチャンス到来だと思っているはずだ。

 

秦:日本はここのところノーベル賞受賞者が出ており、基礎研究はいいのだが、それを社会実装に結び付けるところに課題があると言われるがその点はどうか。

伊吹:公的な研究開発支援については、基礎研究を大学(文科省)やJSTが担い、その先にNEDOなどがあるが、組織の谷間、支援の谷間があったように反省している。そこで公的機関の連携協定「Plus」という取り組みを行っており、昨年度に連携機関を増やすなど、谷間を繋ぐ努力を行っている。

 

秦:基礎研究と社会実装、事業化という意味で大学発スタートアップをどう評価しておられるか。

田邉:川崎では創造のもりに慶應義塾大学のタウンキャンパスがあり見ているが、やはりビジネス化に苦労されているようだ。一般的に大学の経営分野の人材(教員)のサポートはどうなのだろうか。

秦:大学もかなり変わって来ているが、依然日本の大学の構造的な問題があるようには思う。日本の大学は基本的に教員と職員という2つの職種しかないのだが、大学発スタートアップの経営実務を支援するような教員、大学スタッフがもっと増えてもいいのではないか。

福田:JSTの関係で大学の取組みを見ているが、少なくとも国立大学では独法化で収益意識が強まっている。それと、スタートアップのIPOにおいて従来大学教員がCEOであったら上場は認められなかったが、コロナでオンラインでのコミュニケーションが普通になったことなどもあって、上場が認められるようになってきた。そうした環境変化はある。

秦:さて残り時間が少なくなっているのでフロアーからの質問、意見を伺いたい。

会場:自治体である川崎市の支援の目線、方向性はどうなのか。

田邉:以下は私見なのだが、自治体には土地・土地の歴史文化があり、それを考えると川崎はモノ作り都市としての歴史があり、アントレプレナーシップは培われてきていると思う。従来の川崎は生産工場、更には研究開発拠点ということだったが、今後はヒトの価値を高めるための方向性、目線を持ちながらディープテックのスタートアップ支援を行っていきたい。



※「THE INDEPENDENTS」2023年6月号 P.10- P11より
※冊子掲載時点での情報です