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「インターネット上の匿名での投稿記事について、損害賠償請求を認めた事例」

 大阪地裁令和5年3月16日判決


1 事案
 
 本件は、ウェブサイト作成等を営む原告が、被告会社及びその代表取締役である被告P1に対し、被告P1がインターネット上のウェブサイトにおいて、「どうも自分でネットに企業の誹謗中傷を書いて、それをネタにネットの誹謗中傷対策しますというマッチポンプ詐欺の会社のようです」などの投稿を匿名でした行為が、不正競争防止法2条1項21号に該当するとして、損害賠償金等の支払を求める事案です。
 

2 大阪地裁の判断

 大阪地裁は、不正競争防止法2条1項21号の適示事実の虚偽性の要件について、以下のとおり判断しました。
 投稿記事の内容は、「『自分でネットに企業の誹謗中傷を書いて、それをネタにネットの誹謗中傷対策しますというマッチポンプ詐欺の会社』と記載し、原告について、営業対象先を誹謗中傷する内容の記事を予めインターネット上に書き込む等した上で、当該企業に対し、当該書き込みを契機としてその対策業務を行う原告への依頼を促す旨の営業活動を行っているという事実を指摘するものである。当該記載を閲覧した本件ページの閲覧者は、原告がこのような詐欺的な営業活動を行う会社であると読み取るものといえる。しかし、本件証拠に照らし、原告が、自ら営業対象先を誹謗中傷する書き込み等をし、その対策等を理由に営業活動を行ったとはいえず、本件投稿2の前記記載は事実に反するといえるから、その虚偽性が認められる。」
 大阪地裁は、不正競争防止法2条1項21号の他の要件も具備するとして、60万円の損害賠償金と遅延損害金を認容する判決を下しました。


3 本裁判例から学ぶこと

(1)インターネット上での匿名での書き込みに対する対処策
 本件ではインターネット上での匿名での書き込みが問題なりました。この点については、原告は、本件訴訟に先立ち、発信者情報開示請求訴訟を行い、書き込み者を特定することに成功しています。
 すなわち、本件では、発信者情報開示請求訴訟の結果、ホームページの企画・制作、販売促進に関する情報・資料の収集、企画及び販売事業等を営む被告会社、及び、被告会社の代表取締役被告P1が特定されています。
 したがって、インターネット上での匿名での書き込みがされた場合、発信者情報開示訴訟は、書き込み者を特定するのに有効な対応策です。
 
(2)発信者情報開示手続きについて法改正
 発信者情報開示手続きは、プロバイダ責任制限法に規定されます。
 旧プロバイダ責任制限法において、書き込み者を特定するためには、コンテンツプロバイダへの仮処分の申し立て(IPアドレスなどの開示請求)、アクセスプロバイダへの訴訟提起(氏名・住所などの開示請求)という少なくとも2回の裁判手続きが必要となっていたことから、これらの裁判手続に多くの時間とコストがかかり、必ずしも被害者救済にとって十分な制度とはいい難い側面がありました。
 そこで、発信者情報の開示手続を、簡易かつ迅速に行うことができるように、発信者情報請求を1つの手続で行うことを可能にする新たな裁判手続が創設され、利用者に使い勝手の良い制度が施行されています(2022年10月1日施行)。
 企業活動を継続していくと、本件のように、インターネット上での、誹謗・中傷に合う場面が少なくありません。看過できない書き込みに対しては、本件同様の法的対応が有効でしょう。

以上

※「THE INDEPENDENTS」2023年6月号 P13より
※掲載時点での情報です
 

 
  弁護士法人 内田・鮫島法律事務所 弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】
所在地:東京都港区虎ノ門2-10-1 虎ノ門ツインビルディング東館16階
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構成人員:弁護士25名・スタッフ13名
取扱法律分野:知財・技術を中心とする法律事務(契約・訴訟)/破産申立、企業再生などの企業法務/瑕疵担保責任、製造物責任、会社法、労務など、製造業に生起する一般法律業務
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