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「医療機器ベンチャーの標準化戦略」

AMI株式会社  代表取締役 CEO 小川晋平 氏 × 弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏


鮫島:心電・心音の同時計測と独自アルゴリズム及びデータ処理により、周囲の環境に左右されず・精緻に・素早く、医師の診断をアシストする「超聴診器」を開発、これを用いて遠隔医療や医学教育など「聴診DX」に取り組む鹿児島本社の研究開発型スタートアップです。

小川:循環器内科医として臨床現場で働いている時に、自覚症状がないうちから早期発見して適切な治療につなげることで救える命がたくさんあると考えていました。さらに、2016年の熊本地震で医療ボランティアとして県内各地をドクターカーで回り、遠隔医療や災害地診療の重要性を痛感しました。これらの問題をAIやICTで解決できるのではないか、聴覚情報だけでなく視覚情報という定量的なデータを伝達手段として用いることが糸口にならないか、そういう想いから超聴診器の開発をスタートしました。

鮫島:2022年10月に「心音図検査装置AMI-SSS01シリーズ」が薬事承認を取得されましたね。

小川:医療機器には認証と承認がありますが、当社は新しいコンセプトであったため該当する認証基準がなく、また先行優位を保つために戦略的に薬事承認を目指しました。

鮫島:研究開発には多額な資金が必要ですが、どのように資金調達されましたか?

小川:リアルテックファンドやCYMERDYNE等からの出資金(計10.4億円)やNEDOの助成事業(約2.8億円)などの研究開発費を使ってようやくここまで辿り着きました。

鮫島:国内ではこの薬事承認が大きなアドバンテージになります。一方で、海外に目を向けると米国を中心に競合企業も確認できます。今後グローバルで勝負するための戦略や参入障壁はどのようにお考えでしょうか。

小川:知財については、「生体音データの送信装置及び伝送システム」(特願2018-153005)など国内特許6件と米国PCT(2021/9)1件を取得済みです。今後の開発目標を「人の耳を超える生体音の取得」に置いており、より具体的には20Hz以下の周波数帯を正確に取るための技術開発に目下取り組んでいます。これが実現できれば一段階上の価値提供が可能になり海外競合に対する勝算も見えてきますが、この周波数帯を評価する基準や規格が確立していないことも課題として残っています。

鮫島:医師の耳で聞こえない周波数帯を解析するというのは、まさに超聴診器の本分ですね。ハードや信号処理の技術開発はもちろん、評価手法の「標準化」にも目を向ける必要があるように思います。これによって自社技術の優位性・競争力を対外的にアピールできますし、自社が設定した「土俵」で他社と競合することが可能になるので、事業競争力にもつながります。

小川:今回の薬事承認では、生体音を人間の可聴周波数帯域の下限20Hzまで正確に取得・保存できることについてPMDAより認めてもらっています。これからの開発目標においては、我々がルールメイカーとなり「標準化」された評価手法の確立を目指すことも重要であると勉強になりました。

鮫島:経済産業省が「新市場創造型標準化制度」を設けており、中小ベンチャーの標準化に向けた取組みをサポートしています。弊所でもこの制度を活用した弁護士がいますので、気軽にご相談ください。新たな標準をつくるというのはまさにスタートアップ的であり、何より誰もがどこにいても質の高い医療を受けられる世界を目指すという貴社のミッションには大いに賛同します。今後の飛躍に期待しています。


―「THE INDEPENDENTS」2023年6月号 P12より

※冊子掲載時点での情報です
 
 

 
  <話し手>
AMI株式会社  代表取締役 CEO 小川晋平 氏
東京医科歯科大学 特任准教授。加治木温泉病院循環器内科医。
熊本県熊本市出身。熊本大学卒業後、循環器内科医として富良野協会病院・熊本大学病院・済生会熊本病院などに勤務。
2015年11月、AMI株式会社を設立。「聴診DX」を実現するためにAI医療機器や遠隔医療サービスの社会実装を目指して研究開発を進めている。本店は熊本県水俣市、本社は鹿児島県鹿児島市。
厚生労働省  ベンチャーアワード、総務省 、経産局 J-Startup KYUSHUに選定。その他受賞歴として、KDDI∞ラボ 最優秀賞、ヘルスケア産業づくり貢献大賞 大賞、Healthcare Venture Knot 最優秀賞、メドテックグランプリ 最優秀賞、CEJ C-Startup Pitch 最優秀賞 ICC FUKUOKA 2023 デザイン&イノベーションアワード グランプリ受賞 など。


AMI株式会社
【設 立】2015年11月2日
【所在地】本社 鹿児島県鹿児島市東千石町2-13 302号
     本店 熊本県水俣市浜松町5-98 (東京都、京都市、神戸市、熊本市)
【資本金】10,000千円(発行済株数32,671,800株)
     *累計資本調達10.4億円(2023年1月末)
【事業内容】医療機器の開発・遠隔医療サービスの提供
【従業員数】38名(2023年1月末)



   <聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。

 

AMI株式会社

住所
熊本県水俣市浜松町5-98
代表者
代表取締役 小川晋平
設立
2015年11月2日
資本金
10,000千円
従業員数
38名
事業内容
医療機器および遠隔医療サービスの企画、開発、製造販売
URL
https://ami.inc/